寒いから元気が貰える曲を
ラブライブスーパースター Liella!
未来は風のように
パーリの裏側
「さて……聞かせて貰えるかな? 君たちの雇い主は誰なのかを」
ミズキさんがリーダーに問いかける。
「何度も言わせるな。冒険者が雇い主の事を漏らす訳が……」
「はいはい、御託は聞き飽きたわ。ゾンビになりたくなかったら、とっとと吐いた方がいいわよ?」
お嬢様がかなり辛辣なのは、このところの戦闘で敗北続きだからなのかも知れない。
「そうさのぉ。ゾンビの能力は元の体に左右されるからのぅ。こやつ等は良いゾンビになると思うぞぇ」
ルシファーもそれに追い打ちをかける。
「ひっ……」「やだっ!」「ゾンビになんてなりたくない、ううっ……」
どうやら女性陣の方を堕とす方が早そうだ。そりゃあそうだよね。私もゾンビになんてなりたくないもの。
冒険者達はシルヴィアが全員バインドで拘束した。だから身動き1つ取れない。煮るなり焼くなりご自由にの状態だから、さぞや恐怖を覚えているだろう。
ちなみにリーダー以外の男2人は、まだおねんねの最中である。
「リーダーより貴女たちの方が話が分かりそうね。教えて貰えるかしら、貴女たちの黒幕を」
「話しますっ。話しますからどうかゾンビにだけは……」
「おいっ、お前達っ!」
リーダーの制止も甲斐なく、対アンデッド専門の魔法使いがペラペラと喋り始めた。
「……という訳なんです……」
不服そうに睨みつけるリーダーの横で、彼女達3人は全てを喋った。
「なるほどねぇ……」
お嬢様が深刻な顔で肯く。今の話が本当ならば、笑えない話だ。
依頼主は思った通りカスロン。それともう1人、現パーリ領都長──アンナ・イゾルデ。彼等の目的は優秀なネクロマンサーを集める事。その為にルシファー若しくはシルヴィを拉致する。ここまでは私たちも想像していた。
問題はその理由だ。今、パーリの街には深刻な問題が起こっていた。それは、オ・セイヌ川の汚染である。そういえば、カルム村の村長もそんな事を言っていたような気がする。
で、その汚染の原因がダークスライムと呼ばれる魔物。その魔物がパーリの下水道に大量発生してしまったのだ。そのダークスライムが垂れ流す汚染物質でオ・セイヌ川が汚れ、疫病が流行り始めているらしい。
早急にダークスライムの駆除をする必要がある。しかし駆除をする為には大きな問題があった。
ダークスライム自体はそれ程強い魔物ではなく、せいぜいスライムに毛が生えた程度のモノらしい。だから街の民が総出で当たれば出来ない事はないのだが、問題はパーリの住民の性格にある。
彼等は基本的に怠け者で人任せなのだ。その上プライドが高く、汚れ仕事を嫌がる。下水道に入ってダークスライムの駆除なんて誰もやろうとしない。
もしフランカス地方の領主が貴族なら、強権発動も出来ただろう。しかしフランカス領主は民衆が選挙で選ぶ。強権発動などしようものなら、次の選挙で確実にその座を奪われる。それが分かっているから無理に事を運ぶ事が出来ない。従って手詰まりなのだ。
「酷い話よね。自分たちの生活を守る為なのに……」
お嬢様がそう呟いた。
「民衆政治の弊害って奴ですかねぇ……」
うーん……みんなで話し合って決めるというのは一見良いように思えるんだけどね。話し合いには時間がかかるから、緊急時には対処できないって事かなぁ……
「時に民衆は愚かな選択をする事がある」
ライトさんが苦々しく呟いた。
「水が低い方に流れるように、人は楽な方へと流されやすいからね……」
ミズキさんも眉間にしわを寄せた。
「それで?」
お嬢様が先を促す。何故ネクロマンサーが必用になるのか。いよいよ話の核心部分だ。
「人々がやりたがらないんなら、アンデッドに任せれば良いんじゃないかと考えたそうよ……」
女戦士がそう言った。
なるほどねぇ……。確かに筋は通っている。アンデッドなら文句を言わずに働くだろうからね。でもそれなら何故秘密にしてるんだろう? わざわざ冒険者まで雇ってルシファーやシルヴィをさらわなくても、ちゃんと依頼すれば良いんじゃない?
「何か裏がありそうじゃな……」
「どういう事?」
「アルカスで疫病が流行った時の事を思いだしてな……」
ルシファーが静かに語り始めた。
疫病が流行る前のアルカスが、フランカス地方随一の観光地として栄えていたのは前述の通り。カスロンの政治的手腕によって急速に発展したアルカスだったが、裏ではその弊害も起こっていた。
急激に増加した観光客による環境破壊である。観光客が出す汚物やゴミがアルカスを静かに蝕んでいたのだ。表通りはとても美しいが、一歩裏通りに入るとゴミが溢れ、ネズミ等が蔓延る町となってしまった。
「カスロンもそれを気に病み、何とかしようとしていたんじゃが……」
人の手だけではゴミの処理が間に合わない。ならどうするか? 人ならざるモノの手を借りるのはどうだろうか? そんな話をルシフェリアにカスロンがした事があったそうだ。
それから暫くしてゴミの処理効率が急に上がった。町のゴミや汚物は一掃され、アルカスは以前のような表も裏も綺麗な町に戻った。観光客の増加はそのままでだ。
今から考えてみると、それには不自然な点がいくつもある。その後疫病が流行ったのだから、何か裏があったのでは……とルシファーが考えるのも無理はないだろう。
「そう言えばパーリの街でも最近スポーツの祭典があって、観客の出すゴミ処理問題で困っていたと聞いたことが……」
女戦士がそう言った。
「何だか状況が似てるわね」
お嬢様の言葉に
「どの道パーリには行くつもりだったんだ。行って直接確かめた方が早そうだね」
ミズキさんがそう反応した。
カルム村の村長さんには近づかないように忠告されたけど、流石にこれは放っておく事はできないわよね。そう考えた私たちは、早速パーリへ旅立つ事にした。
───────────────────
「シルフィ……いや、シルヴィ……元気での。カスロンの事をくれぐれもよろしく頼む」
「うん、お母さんも元気で……ね」
元の姿に戻ったシルヴィがルシファーに別れを告げる。
「冒険者達の事は頼んだわよ」
お嬢様がそう言うと、ルシファーがニヤリと笑いながら答えた。
「任せとけ。死者の町作りを手伝わせてやるわぃ」
今回の事が解決するまで、冒険者達はここに拘束して貰う事になった。カスロンにこちらの事を知られたくないからね。彼等には、ちゃんと言うことを聞かないとゾンビにされるよと脅してある。
リーダーは頭が固くてなかなかウンと言わなかったが、他の冒険者達は柔軟な態度で恭順の意を示した。女性陣からは「協力するから一緒にパーリへ連れて行って欲しい」と必死の形相で頼まれたんだけどね。流石にさっきまで敵だった者達を信用するほど、私たちもお人好しじゃないのだ。
ただまぁ、遠見のスキルを持った男──彼に協力させれば、この先役に立つのではと思ったんだけど、これはお嬢様が嫌がったのだ。身内に毒を使う者がいるのは安心出来ないって。
そんな訳で、私たちのパーティーにはシルヴィ1人が加わったのみ。それでも8人の大所帯だ。そろそろパーティー名を決めた方がいいのかもね。この先も私のせいで増える可能性があるしさ。
新たなるガーディアン
「シルヴィ……シルヴィなの?」
光の中にたたずむ少女に私は問いかける。するとその少女は少し首を傾げると、こう答えた。
「私は3番目のガーディアンでぇす。シルヴィと呼ばれる個体を依り代にして顕現していまぁす。なので、マスターがそう呼びたければその名前で呼んで下さぁい」
少し間延びした喋り方で話すその娘は、どうやらブランシェと同じガーディアンのようだ。
「うん、分かった。名前の事は後にしましょう。取り敢えず、この状況を何とかできる?」
私は藁にも縋るような気持ちで言った。
「お任せあれ~!」
その娘はそう言うと、頭上に杖を掲げた。
「クリエイト・ストーンゴーレム~!」
彼女が歌うように言うと、残っていたゾンビたちが一斉に岩の人形に変わった。よく見ると地面からも新しい人形たちが湧いて出てくる。
その人形たちが魔法使いに向かって歩み始めた。
「な、なんでゴーレム~!? 聞いてない、聞いてないよ~っ!!」
魔法使いのうちの1人が戸惑いの声をあげる。どうやら彼女は対アンデッド専門の魔法使いらしい。ゴーレムに対しては有効な魔法を持ってないのだろう。完全に戦意を喪失している。
もう1人の魔法使いは、ファイヤーボールやライトニングで攻撃しているが、岩のゴーレムに対して有効ではなく、こちらも防戦一方になっていた。
「もひとつおまけ~っ! クリエイト・メタルゴーレム~!」
今度は地中から鉄の巨人が現れ、漆黒の鎧の戦士と対峙する。
ガイーンッ!
漆黒の鎧の戦士がメタルゴーレムに斬りかかるが、メタルゴーレムの装甲には傷1つつかない。
「何だとっ!?」
漆黒の鎧の戦士が持つ剣が、根元からポキリと折れた。攻撃の手段がなくなった漆黒の鎧の戦士は後退しようとした。しかしそこにルシファーの魔法が飛ぶ。
「カースバインドッ!」
「うぉっ!?」
黒き呪いの鎖に捕らわれた漆黒の戦士は、その場で昏倒した。
戦況は一瞬でひっくり返った。残る冒険者達は3人だ。
毒ナイフを使う男は、ラパンが追いかけている。男は何度か投げナイフで反撃したが、ラパンはその攻撃をことごとく躱していた。そしてラパンに男が気を取られた隙に、上空からミントのライトニングが炸裂する。
「うごぉあっ!」
男は地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「まだやりますか?」
ミズキさんがリーダーに問いかける。もうこうなれば彼等に勝ち目はない。しかし、ミズキさんの言葉にリーダーは答えず斬りかかった。それをミズキさんは盾で防ぐ。
「人には使いたくなかったんだけどね……」
そう言うとミズキさんは銃の引き金を静かに引いた。
ズガーンッ!
銃から飛び出した弾丸は、リーダーの右肩を撃ち抜いた。
「ひっ……」
後に残された女戦士は、最早戦意を喪失し、地面に膝をついている。リーダーは右肩を抑えてその場に崩れ落ちた。
その姿が目に入ったのだろう。最後まで抵抗を続けていた魔法使いもガクリと膝をつき、そのまま戦闘は終了した。
「ヒールっ!」
ヨシュアがお嬢様に回復の魔法を使った。
「うっ……」
お嬢様が目を覚ます。
「良かった……お嬢様っ!」
私はそう言ってお嬢様に駈け寄った。
「戦いは終わった……の?」
「はい、私たちの勝ちです」
「そっか……またアタシは……」
お嬢様が悔しそうに唇を噛みしめた。
「こちらの方はどうしますかぁ~?」
そうだ。ライトさんっ! 早く解毒しないとっ!
「了解でぇす。アンチポイズン~」
さすがこの娘もガーディアンだ。リンケージしてるから話が早い。
少女が呪文を唱えると、ライトさんの青黒ぬなっていた顔に血の気が戻った。無事解毒されたようで私はホッとする。
「ありがとう……えっと……シルヴィ?」
「いいえ~、これが私の仕事……? 任務……? うーん……うまく言えないけどぉ、とにかくマスターを護るのが私の役目なのでぇ……」
「うん、本当に助かったわ。こんなにあっさりと戦いを終わらせられたのはアナタのお陰よ」
「お役に立てて良かったですぅ~」
そう言って少女は柔やかに笑った。
「そうだ。アナタの名前なんだけど、シルヴィアなんてどう? やっぱりシルヴィとは分けたいし」
「あ、いいですねぇ~。依り代との繋がりも感じますし、そう呼んで下さいませぇ」
「分かったわ。シルヴィア」
「その娘は……シルヴィなのかえ?」
いつの間にか側にいたルシファーが声をかけてきた。
「ええ、彼女は……」
私はルシファーにガーディアンについて説明した。
「なるほどのぉ……。死霊術ではないが、それに近いスキルという事か。妾も初めて見たが凄いもんじゃな」
そうね。ゴーレムをあんなに召喚できるなんて驚きだわ。
「ホント、シルヴィアの召喚術は凄いですよね」
「いや、妾が凄いと言ったのは、そのガーディアンを呼び出した其方のスキルの事なんじゃが……」
ルシファーが苦笑いしながら言った。
あぁ、そっちね。私としては、何故こんなスキルが使えるのか分からないから思いっきりスルーしちゃったわ。しかも、使いこなせてないし……
「そうだ、シルヴィア?」
「はぁい?」
「アナタたちガーディアンってどう呼び出すの?」
ブランシェがすんなり呼び出せていれば、こんなに苦戦しなかったはずなのよね。
「うーん、それは私にも分かりませぇん……」
「えぇ~っ!?」
「なんじゃ、其方自分で呼び出したんじゃないのかえ?」
「ええ、実は……」
私は他にもガーディアンが存在する事、今回呼び出そうとして出来なかった事をルシファーに説明する。
「つまり、まだ開発途上のスキルなのだな。魔法もスキルも訓練によって使いこなせるようになるからのぅ」
「そうなんですかねぇ……」
取り敢えず、ブランシェにもう一度会う必要がありそうね。
「あ、もう一ついい?」
「何でしょぉ~?」
「アナタって最初から感情豊かよね。ブランシェと違って」
「あー、それは多分依り代によるんだと思いますぅ~」
なるほど。確かにラパンは愛情深いけど、感情表現が苦手だったわね。
「つまりアナタはシルヴィに似てるって事?」
「というか、依り代本来の特性を受け継いでるんだと思いますねぇ……」
その時ルシファーが肩を落として呟いた。
「シルフィも本来ならこのように……」
そっか……。もしゾンビにならなかったら。もっと分かり易くルシファーが愛情を注いでいたら。シルフィはこんな娘に育っていたのかも知れないのよね。
「大丈夫、まだ間に合うわ……」
そう、まだやり直せるはず。シルフィはシルヴィに変わってしまったけれど。これからみんなで愛情を注いでいけば、彼女にも笑顔が取り戻せるはずだ。
「そうか……よろしく頼む」
「人任せにしちゃダメよ。貴女は母親なんだから」
そうよ。例え毒親だったとしても、子にとって母親はたった1人なのだから。貴女もやり直さなくちゃ。
「じゃが私は共には行けぬ……」
「だから待ってて。カスロンに会って、真相を確かめたら必ず戻ってくるわ。シルヴィと一緒に」
「……あぁ……あぁ……待っている。待っているとも……」
ルシファーの目から大粒の涙が零れた。そして私はルシファーの肩をそっと抱きしめた。
敵襲
ザワッ……
急に町の空気が変わった。見回すと町のあちらこちらからゾンビたちが湧き出ている。
「何? どうしたの?」
「どうやら奴の手の者が入り込んだようだの……」
「……つけられたか」
ライトさんが悔しそうな声で呟いた。
しまった……。私たちも視られてたんだ。遠見のスキルで。
私たちがアルカスの町中を探索していた事も、店の裏の作業小屋に入った事も全て。小屋の結界は私が無力化してしまった。ここまで追ってくる事はさほど難しくはなかっただろう。
「まぁ、心配するでない。今まで何度も追い返してきたんじゃ。ゾンビたちに任せておけば問題ない……」
ルシファーはそう言ったが、私たちが敵を呼び込んでしまったという後ろめたさから、私たちは町の入り口に急いで戻る事にした。だが、そこで見たものはにわかには信じがたい光景だった。
「ターンアンデッドッ!」
「ホーリーランスッ!」
2人の魔法使いが呪文を唱えると、数十体のゾンビたちが一気に消えさった。
「ワハハハッ! 対アンデッド用の剣ならゾンビなどに遅れはとらんわっ!」
漆黒の重厚な鎧に包まれた大柄な男の戦士が、光輝くロングソードで一度に数人のゾンビを切り裂いた。
「ふんっ! 装備さえ揃えたら、ゾンビなんて怖くも何ともないのよっ!」
これもまたアンデッドに対して有効な魔法がエンチャントされた武器なのだろう。銀色の鎧に包まれた女の戦士が、白銀のショートソードでゾンビたちを切り刻んでいた。
「何とっ!?」
ルシファーの声にも焦りの色が滲む。その場に現れた冒険者達は6人。そのうち戦闘をしているのは4人のみだが、楽々とゾンビたちを殲滅している。
「アンタ達っ! 人の家を尋ねる時は礼儀正しくって教わらなかったのっ!?」
お嬢様が真っ先にブチ切れた。
「お前達、まさかゾンビ共の味方なのか?」
4人の後ろから金髪の偉丈夫が現れた。どうやら彼がこの冒険者達のリーダーであるようだった。
「いささかやり方が乱暴過ぎるのでは?」
ミズキさんも険しい顔をして言う。しかし男が横柄な態度を改める様子はない。
「我々は依頼された仕事を遂行しているだけだ」
「その依頼主って誰なのよっ!」
再びお嬢様が吼える。
「それは言えんな。依頼主の情報は明かさないのが冒険者というものだ。お前達も冒険者の端くれなら、それくらい分かっているだろう?」
「貴方達の目的は何なのっ?」
私もつい口調が激しくなってしまった。すると、今度はリーダーの影に隠れていた、盗賊風のローブを着た男がスッと前に出た。
「あの娘だぜ~、リーダー。アイツを拉致ってさっさとおさらばしようぜ、こんな所は」
こいつだ。間違いない。こいつが遠見のスキル持ち。きっと、シルヴィが私たちと一緒に行動しているのを視ていたのだ。そして、私たちが小屋の中に入った所も視ていたのに違いない。
「ふっ、そうだな。お前達、その娘をコチラに渡せ。そうすればこちらも手荒な真似はせん」
「娘って誰かしら? こっちは女の子が多いから誰のことか良く分からないわね」
お嬢様が皮肉たっぷりに言う。
「惚けるのは時間の無駄だ。そのゾンビ娘に決まっている」
リーダーの視線がシルヴィに向いた。
「この娘はもうゾンビではない。それに貴様等に渡す義理もない。とっととここから去るがよい」
ルシファーがそう言うと、リーダーは
「ならば力づくで連れて行くのみよ」
鈍い銀色をした剣を抜きながらそう言った。
「しーな……どうする……?」
ラパンがいつにもなく慎重だ。多分相手の力量を測りかねているのだろう。見た感じはかなり腕が立つように思える。しかし、数はこちらが上だ。ゾンビと私たちの両方を相手にするのは6人では……
「お前ら、対人戦はやったことがないみてぇだなぁ。隙が多いんだよっ!」
盗賊風の男がナイフを投げた。私たちがそのナイフに気を取られた隙を突いて、リーダーが切り込んで来る。狙いは……ヨシュア!?
ヨシュアが私たちのパーティーにとって、生命線であるのを知られている。その事実に私たちは浮き足立った。その隙を見逃さず、リーダーがヨシュアに迫る。
ガキンッ!
間一髪その剣を受け止めたのはライトさんだった。
「ちっ、出来る奴もいるようだな」
リーダーはそう言うと、回り込みながらライトさんの隙を覗い始めた。
「こういうのはどうよっ!」
再度盗賊風の男がナイフを投げた。しかし、それは全く的外れの場所に飛んでいく。
「と、思うじゃーん?」
男がそう言った途端、ナイフの軌道が変わった。目を凝らさなければ分からない程の細い糸が、ナイフに繫がっていた。男はそれを引いてナイフの軌道を変えたのだ。
「ぐっ……」
ナイフの切っ先がライトさんの頬を掠める。ライトさんの頬から一筋の血が流れた。
ちょっとっ! 私の推しの顔に何てことすんのよっ! 絶対許さないんだからねっ。
そう私が怒りに燃えていると、ライトさんの様子がおかしい事に気づく。何だか息が荒く、足下がフラフラし始めた。
「ヒッヒッヒッ! 即効性の毒が効いてきたようだなぁっ」
盗賊風の男がうそぶいた。
それを聞いた私は完全にブチ切れた。
「ブランシェっ!」
そう、ここはダンジョンの中だ。私の生命エネルギーが活性化している。ブランシェを呼ぶ事が出来るはずだ。彼女なら、奴等を一瞬で叩きのめす事も可能だろう。
そう思ってブランシェを呼んだのだが……何も起こらない。一向にブランシェに変身する様子のないラパンを見つめる私。その私の視線を不思議そうに見つめ返すラパン。
「なんでっ!?」
何故ブランシェは来ない? 生命エネルギーが足りないの? それとも何か別の問題でも? そこまで考えたとき、私はハッと気づいた。
今までガーディアンが現れたのは、私たちがどうしようもないピンチに陥った時だった。呼び出そうと意識して呼び出した訳じゃない。つまり……私はガーディアンの呼び出し方を知らない……?
「そんな馬鹿なっ!」
何で呼び出し方を聞いておかなかったの? そう後悔しても後の祭りだった。
私が混乱から動けないでいるうちに、事態はどんどん移り変わっていた。毒が回って動けないライトさんを庇う為に、ミズキさんがリーダーと対峙する。そしてお嬢様は盗賊風の男を追っていた。
盗賊風の男は逃げながら、お嬢様に向かってさっきのナイフを投げる。お嬢様はナイフを躱そうとして足を滑らせてしまった。その隙を突いて盗賊風の男は新たなナイフで斬りかかった。
「きゃっ!」
お嬢様の腕を男のナイフが掠めた。お嬢様の顔色が一気に青ざめ、地面に縫い止められたように動かない。マズいっ! あのナイフにも毒が塗ってあったに違いない。
動けないお嬢様に男が迫る。しかし、その時それを防いだのはラパンだった。
「ラパン、ナイスっ!」
私はラパンに声をかけ、すかさず空に向かって叫んだ。
「ミントっ! お願いっ!」
「オーケーマム!」
上空のミントから、ライトニングの矢が男に向かって飛んだ。
「チッ……」
男が跳び退りライトニングの矢を躱した。そして同時にミントに向かってナイフを投げる。そのナイフはミントには届かなかったが、牽制するには充分だった。2発目のライトニングを放とうとしていたミントが撃つのを躊躇する。
ライトさんに続いてお嬢様も毒に侵されてしまった。今回はヨシュアが健在だからお嬢様の回復は可能だ。でもヨシュアが再び狙われたらどうすれば? それにライトさんの解毒も急がないと……。焦りで心が乱れる。
ゾンビたちとルシファーは最初の4人の相手で手一杯。ラパンは盗賊風の男を追いかけている。ミントのライトニングもこの乱戦の中では使いにくい。明らかにこちらの状況はジリ貧だ。
ヨシュアとシルヴィを私が護らなくてはならないと強く思った……その時だった。
「きゃぁっ!」
「シルヴィっ!?」
「つーかまえたっ!」
いつの間に近寄っていたのか、女戦士がシルヴィの腕を掴んでいた。
「シルヴィを離してっ!」
私は『裂』と『空』を構えて、女戦士ににじり寄る。
「いいのかなぁ? この娘がどうなっても」
その女戦士は、シルヴィを盾にしながらじりじりと後ろに下がる。
「卑怯なっ!」
「どんな手を使っても依頼を達成する。それが冒険者ってもんなんだよ、お嬢ちゃん」
くっ……。ダメだ、打つ手がない。このままではシルヴィが連れて行かれる。無力な自分に涙が出そうになる。
嫌だ。このままシルヴィが連れ去られるなんて。
護りたい。
護らなきゃ。
シルヴィを……
ライトさんを……
みんなを!!
───シュイーン───
Accept Order
Guard Skill Open
Create Gurdian3 with LABYRINTH
「何っ!?」
シルヴィの体が光の繭に包まれた。女戦士の手がシルヴィから離れた。繭から出る光がどんどん増していき、まぶしさで目が眩む。そして、その光が弾けた時……
光の中から美しい魔法少女が現れた。
母と娘というテーマだとこの曲が浮かぶよね
ちな、この曲「后来(ホーライ)」という曲名で
台湾でカバーされて大ヒットしたらしいんだけど
詩は別れた恋人の事を思って「今貴方は何をしてるの?会いたいよ」って内容らしい
同じ曲でも全く違ってて面白いよね
1度聴いてみてね😊
https://youtube.com/shorts/b9nurAUzkfo?si=GjKNhkaHVcwLWsuy
ラストゾンビはあなたに
フランカス地方第25代領主レミュエラ・カスロン。彼は私たちでも、その名前を知っているほどの有名人である。
フランカス地方というのは、王国の中でも特異な地域だ。王国の領主というのは貴族による世襲制である。世継ぎ問題などでお家騒動でも起こらない限り、代々その地を治める貴族家が領主の座を引き継ぐ。
しかし唯一フランカス地方の領主は、民衆によって選挙で選ばれる。そうなった歴史的な背景は話すと長くなるので省くが、カスロンは歴代最年少でフランカス地方の領主となったエリート中のエリートだった。
「カスロンはの……アルカスの町長の息子だったのよ」
「カスロン……さんはこの町の出身だったんですか?」
「そうじゃ。若くして有能な政治家であった……」
ルシファーが話した事は、にわかには信じられないものだった。
幼少の頃から政治に明るかったカスロンは、弱冠20歳の若さで政治家としてデビューした。そして父親に請われてアルカス町政の仕事を手伝うようになる。
その政治的手腕は素晴らしく、僅か数年でアルカスの町を、フランカス地方随一の観光地にしてしまった。
しかし中央の政治家に転身したいという野望を持っていたカスロンは、更なる実績を積み上げたいと考えていた。ちょうどその頃ルシフェリアと出会ったのだ。
互いに惹かれ、付き合い始めた2人。やがて一緒に暮らし始め、シルフィという可愛い女の子が2人の間に生まれる。
こうして親子3人の幸せな時が流れた。けれどカスロンはその生活に満足していなかった。いずれフランカス地方の領都であるパーリで、政治家として活躍したいと思っていたからだ。
その為には自分の手足となって働いてくれる者がいる。出来るだけ多く、そして従順な者たちが。彼は日々その方法を追い求め、そして1つの答えにたどり着く。それが死霊術だった。
死人(しびと)なら文句も言わず自分の為に働いてくれる。汚れ仕事も任せられる。それこそ不眠不休で。そう考え、死霊術について彼は研究を始めた。
しかし彼には死霊術を使いこなす為の素質がなかった。魔力が足りなかったのだ。そこで目をつけたのが娘のシルフィだ。シルフィにはその素質があった。彼女の魔力は常人の域を超えていたのだ。
「カスロン……は貴女には協力を求めなかったの?」
「求めたさ。だが妾はそれを拒否した。何故ならそれを行ってしまえば、カスロンがアルカスからいなくなると分かってたからの」
「あぁ、なるほど……」
「カスロンには悪いが、妾はその時の生活を失いたくなかったのじゃ。彼と妾、そしてシルフィの3人で……アルカスでずっと……暮らしていきたかった」
ルシフェリアの協力を得られなかったカスロンは考えた。どうしたらシルフィが死霊術を使えるようになるか。そんな時アルカスに疫病が流行り始めた。
黒死病と呼ばれるその疫病は、アルカスの町中に瞬く間に広まった。町には大勢の病人が溢れた。ルシフェリアとシルフィは人々を救おうと懸命に薬を造り続けた。しかし材料の枯渇で、人々の救済は難しくなっていった。
「後で知った事じゃが、材料の枯渇は仕組まれたものじゃった。犯人はカスロンじゃった……」
「お父さんが!?」
「なんでそんな事を?」
「死人をゾンビに変える為よ……」
カスロンは、死霊術の研究で得た薬のレシピを2種類用意した。1つは死者をゾンビ化する薬。もう1つは生者をゾンビ化する薬だ。
それを普通の薬のレシピとすり替えたのだ。そしてそれがシルフィの手に渡るように仕組んだ。幼さ故にその事に気づかなかったシルフィは、その薬を造り上げてしまう。
「まさか……《死者への誘い》を造ったのは……」
「そう……シルフィじゃ……」
「そんな……私が……ゾンビを……」
こうして人々をゾンビ化する薬を手に入れたカスロンは、アルカスの町民たちを次々とゾンビにしていった。けれど、彼にも誤算があった。シルフィが誤って《死者への誘い》を飲んでしまったのだ。
「あ……」
シルヴィがヨシュアに薬を飲ませた時の記憶がフラッシュバックする。あの時のように病人に飲ませようとしたなら……
「そう。シルフィは《死者への誘い》を口移しで飲ませようとして、ゾンビ化してしまったのじゃ」
それを知ったカスロンは焦った。シルフィにゾンビ達を操らせ、自分の仕事を手伝わせようと考えていたからだ。ネクロマンサーにする予定だったシルフィがゾンビ化してしまった以上、彼の計画は失敗してしまったも同然だった。
彼は自分が疫病で死んだ事を偽装し、こっそりとアルカスの町を出た。そしてパーリに移り住み、領主の座まで上り詰めたのだ。
「どうやってそこまで上り詰めたのかは分からんが、どうせロクな事はしとらんじゃろうな」
後に残されたルシフェリアは、あまりの悲しみで心を病んだ。愛する夫はいなくなり、娘はゾンビになってしまった。そして町にはゾンビが溢れている。これで正気を保っていられる方がおかしい。
正気を失ったルシフェリアは、遂に死霊術に手を出した。そしてネクロマンサーの力を得た。そして過去を忘れ去る為に、ルシファーと名前を変えた。
「ネクロマンサーになればシルフィを甦らせる事ができるかも知れないと思ったんじゃ。しかし……」
「出来なかったのね」
「ああ、妾の力では無理じゃった。妾に出来たのは町に溢れたゾンビたちを従える事のみよ」
「どうしてシルヴィを失敗作だなんて呼んでたの?」
「それは……奴からシルフィを護る為じゃ」
ルシファーというネクロマンサーがアルカスに現れた。その事がどうやらカスロンに伝わってしまったらしい。そこでカスロンは考える。ルシファーというのはもしかしたらルシフェリア、もしくはシルフィなのではないかと。
カスロンは冒険者を雇い、アルカスの町を探らせた。そして、シルフィが完全なゾンビ化をしていないことを知った。
シルフィが手に入れられれば死霊術の研究が一段と進む。失敗したと思っていたゾンビを用いた統治が、可能になるかも知れない。そう考えたカスロンは、シルフィの拉致を考えた。
死んだと思っていたカスロンが領主になっている事を知り、最初こそ喜んだルシファーだったが、やがてカスロンの目的を知ることになる。カスロンがシルフィを拉致しようと画策している事を知ったルシファーは、防衛策を講じた。
シルフィを失敗作と呼び、お前は失敗作だからと店の奥に閉じ込めた。シルフィを拉致しようと町にやって来る冒険者達を、ゾンビやレイスを使って追い返した。私たちが攻撃されたのは、そういう経緯があったからだ。
そして死者の町を造り上げ、シルフィをそこに匿う。それがルシファーの立てた計画だった。
「ここでシルフィと暮らすというのが妾の願いじゃった……」
「だったらどうしてシルフィを……」
手放すような真似をしたの?
「シルフィはまだ若い。こんな所でこの先死者と永遠に暮らさせるのは忍びない……」
「それで私たちに託そうと?」
「あぁ、其方と兎娘の関係を観ての。もしかしたら妾の出来んかった事が出来るかもしれんと思ってな。一芝居打たせて貰った」
「ちゃんと説明してくれたら良かったじゃない。あの時私がシルフィの元に行かずに貴女を追ってたらシルフィは……」
本当に危なかったわ。消える寸前だったもの。
「その時は妾もそなたに討たれて親子ともども消えるのみじゃ。それに、ゾンビと命を共有するのは嫌じゃと言うとったしな」
「聞いてたのね……」
そうね、確かにあの時はそう思ってた。
「まぁ、それは冗談じゃ。本当は何処に奴の目が潜んでるか分からんからな」
あぁ、確かに。遠くの物や音を見聞きできるスキルがあったわね。冒険者の中には、そういう隠密行動が得意な者がいると聞いたことがあるわ。
「お母さん……私ここでお母さんと暮らしたい……」
「シルフィ……いや、シルヴィ……よく聞くのじゃ。お前の父親は何か良からぬ事を企んでおる。それを止めては貰えぬか」
「どうして私が……?」
「袂を別ったとはいえ家族じゃからな。家族の悪行は家族が止めねばなるまい」
ルシファーの切なる思いが伝わってくる。きっと彼女はまだカスロンの事を愛しているのだろう。
「貴女はどうするの?」
「残念ながら妾はこの場を離れられん。ここで待っておるよ。何時までもな」
「分かったわ。シルヴィの事は任せて」
「カスロンの事も頼む」
そう言った時、ルシファーの瞳から一筋の雫がこぼれ落ちた。
ゾンビが存在できる場所。それは瘴気や魔素の多い場所だ。アルカスの町やこのダンジョンのように。
ここに跳ばされた時に、真っ先に感じたのは生命エネルギーの活性化だった。ルシファーはダンジョンの中に死者の町を築いたのだ。だから彼女はここを離れられない。
何故なら……シルフィと同じく彼女もまた失敗作だから。ネクロマンサーでありながら、ゾンビでもある存在。それはシルフィがシルヴィになった今、ただ1人残った中途半端な……死者と生者の狭間に位置するゾンビだ。そう、この世界で最後の……言わばラストゾンビ。ラストゾンビの称号をルシファー、あなたに。