ウチの上司にお気持ち表明された😓

ウチの上司(♀)は私が言うのもなんだけど才媛である
高校も大学も一緒じゃないけど、一応同い年で何かと比べられやすいのよ
私が田舎の国立卒なら、彼女は都市の国立卒であり、学歴で私が適う相手ではないんだけど
今の彼女の立場は微妙なんだよな
大学を卒業した都市で、そのまま就職すれば問題はなかったのよ
でも、それが出来なかったんだよね
彼女が卒業する直前に、お父さんが体を壊されたの
雪国という過酷な環境もあって、回復するのには時間がかかる
その為お母さんが彼女に帰ってくるよう頼んだのよね
まぁ、彼女もそこまで都市で働く事にこだわりがなかったのと、ウチの会社に働き口があったから素直にそれに応じたというわけ
で、彼女は実家からウチの会社に通い、仕事が出来る人だから今の役職に昇進した
その頃にはお父さんの体も治っていて、彼女も実家を出たんだよね
ここまでは良かったみたい
で、この後に私が入社する事になったわけよ
私が部下になって、同年齢だから何かと比べられるようになった
仕事では断然彼女の方が上よね
当たり前だけど
ここが都市ならね、キャリアウーマン(死語)として彼女は前途有望だったはず
だけどここは哀しいかな、田舎なのよ
どうしても封建的な部分がある
仕事が出来る女性よりも、結婚して母となる女性の方がどうかすると偉く思われる面があるのよ
つい先日、私が結婚している事や
そして今秋、母親になる予定であることが彼女のご両親に伝わってしまったのね
で、「アンタはどうなの!?」と両親からせっつかれるし
お節介なBBAたちが噂するし
どっかの○鹿な部下が「不感症」と罵るわで
彼女は辛い立場にいるというわけ
今更相手を探そうにも、田舎じゃ彼女の学歴やキャリアに釣り合う人がいないのよね
出会いも少ないし、出会っても相手から敬遠されてしまう
このまま年齢を重ねてしまったら……と本人も恐怖を覚え始めて……
そんな時社長から、アメリカに出向しないかという話が舞い下りた
彼女としては行きたい思いが強いんだけど、お母さんが涙ながらに止めるらしい
行ったらいつ帰ってくるか分からない
向こうに永住するかも知れない
治安も良くないし、行かないで欲しいと
そのような事を、今日は涙ながら語られてしまいました😓
でもさ、これって……
私は悪くないよねぇ……?🐑
お帰りなさいませ、旦那様🤭

今までウチの旦那の事はあまり触れてきませんでした😅
まぁ、触れる時も家族が……とか、飼い主が……とか、ややぼかした表現をしてました
これは、まぁ、照れというか慣れなかったというか……
今年の春に籍を入れたばかりってのもあります
後はですね、やっぱり社会的には旦那という表現はよろしくないんですね😞
旦那とか奥さんって言葉は、世間一般ではよく使いますが、とある世界では差別用語だとか言う人もいるんですよ
クレーム対応をしていた頃はそういうのが気になって
使うにしても、妻とか夫とかという言葉を使うようにしてました
それと、私の会社での立場は結構微妙でして
私の父の弟、すなわち叔父の会社に勤めてるんですよね
元々は地方公務員だったんですが、結婚を機会に退職して、専業主婦するぞーって意気込んでた時に
少しでも良いから手伝って欲しいと言われまして、猫の手を貸してるわけです
でもですね……そういった事情を知らない会社の人から見ると、公務員をリタイヤした縁故採用者なわけですよ
当然のように入社当初は風当たりも強く、なかなか同僚とも打ち解けられませんでした
それと、田舎は出会いが少ないせいか、私の周りにはお一人様が多いってのもあります
そんな中で旦那が……とか言ったらマウント取ってるかのように思われて、目の敵にされるんじゃないかと思ってたわけです
転機が訪れたのは7月
部署がクレーム対応……もとい、カスタマーサービスから企画運営のお仕事に変わった事でした
ネットでのリサーチや、AIを使ったお仕事になり
会社のサーバーを管理したりなんてのも片手間にやる事に
こうやって書くと、凄い肩書きのように思えますけど、どれもお手伝い程度の仕事しかしてません
なんせ猫の手ですからw
ようやく仕事にも慣れて来た頃、企画でAI生成イラストを扱うようになり、没になったキャラを使ってファンタジー小説を書き始め……
私の仕事が少しずつ認められるようになって、何となく同僚とも打ち解けてきたんですね
特に優秀な後輩ちゃんは入社時期こそ同じですが
向こうは正社員、こっちは臨時採用のバイトみたいなもんなのに何故か慕ってくれて
私の書く駄作のプロットを手伝ってくれたり、誤字脱字のチェックを自分から進んでやってくれてたりします
何で後輩ちゃんかって言うと、年下だから?
一応私は最初から正規雇用で、彼女は半年間のインターンを経ての9月採用だからって言うんだけどさ
それは正規社員と派遣社員の違いみたいなもんじゃないかな?
そう言ったら、それでも先輩と呼びたいですと言われて戸惑う私🥺
本人的には、私の事を人生の先輩にしておきたいらしいです……解せぬ🤔
そして、何と言っても我が上司の存在を語らずにはいられません
彼女は私と同い年で
大学こそ違いますが話が合う……はずだったんですけどねぇ……😓
いやね、私とは対極の仕事人間なんだよね
もう、仕事が生き甲斐みたいな?
当然独身一直線だし
最初はめっちゃ苦手で
「はい、はいっ、はいぃ~っ!」しか言えなかったんだけど
まぁ、彼女も一応部下とコミュニケーションを取ろうとは思ってたんだろうね
たまにスイーツ食べに誘われたりしてさ
一緒に食べに行くんだけど、私は味が分からないって感じになってた
私は正社員とは違う立場なので
残業とかはしなかったんだけど
彼女はそれが気になってたみたい
「貴女の立場は分かるけど、みんなと打ち解ける為にもたまには残業した方が良いわよ?」
みたいな事をそれとなく言われまして
「そうですね、家族とも相談してみます」
とお茶を濁す私
何度かそんなやり取りがあって、段々とお互い遠慮がなくなっていきました
「貴女ね~……仕事は遊びじゃないのよ?」
とテンプレを言われた時には、流石にこっちもカチーンと来て
「ガチガチに凝り固まった考え方では、良いアイディアは生まれませんから。ちょっとくら息を抜くくらいがちょうどいいかと」
とやり返してしまいました
そっから日々皮肉の応酬が始まったわけw
1日に1回はバトるもんだから
流石に社長もヤバいと思ったのか
「部署換えようか?」
とか言って来る始末
でもね、逃げるのは私の主義に反する
殴られたら倍は殴り返さないと気が済まない
そんな思いを抱きつつ、日々を過ごしておりました
ま、そうこうするうちにお互い慣れてきましてw
擦り合わせる事ができたというか
お互い1日の終わりに1回だけバトるというのが暗黙の了解になりました
バトルの内容も、本日の仕事内容の報告時に5分ほどジャブの応酬する程度になりまして
ま、これがお互いのストレス解消法にもなっているので結果オーライかなとw
で、遂に私は彼女の弱点を見つけたわけw
相も変わらず残業をするように言われた時
「あー、旦那と相談します。なんせ『新婚』だもんで😄ニッコリ」
こう言ってやった時、彼女の頬がヒクッとなったのを私は見逃さなかった
それ以来、何かと旦那が……旦那さんに……旦那様に聞かないと……
これを駆使し続ける私
フッ……勝った……🤭
まぁ、勝者の余裕で、11月の終わり頃から残業も少しずつするように『してあげた』んですけどねw
はい、嫌なヤツです、私🤣
というわけで、旦那呼びにも慣れてきまして
最近は本人にも言っております
「お帰りなさいませ、旦那様……」
ここからのテンプレ会話は、流石に夫婦だけのヒ・ミ・ツ😎
信じるも信じないもアナタ次第ですw
明けましておめでとうございます!

新年明けましておめでとうございます!
龍から蛇になって、へび年生まれの人には失礼ですけど、少しスケールダウンしたんじゃないかと呟いたら
「八岐大蛇も蛇だし、神聖な生き物だから」
とたしなめられました
確かに白蛇とか有名だよね
私もお財布に蛇の抜け殻入れてるし
干支を決める話がありますよね?
新年に神様の所に挨拶に行く話
猫は鼠に騙されて、日にちを間違えたから干支になれなかったってヤツですよ😅
あの時蛇はどうやって行ったんだろうなあってつい余計な事を考えてしまいました🤔
年末は旦那の実家に行ってたんですけど、大掃除を手伝って、甥っ子や姪っ子のお年玉を預けて帰宅しました
それで、大晦日は自宅で旦那と二人きりで過ごしました
田舎の年越しは親戚が集まるので、気疲れするからと言うのが表向きの理由ですが
実は私がやらかしたからなんですねぇ……😓オー マイ ゴット
今や都会では伝説の
「子どもはまだか~?」
というセクハラが、田舎では当たり前にあるわけですよ
義父や義母から言われるのは仕方がないので、覚悟して行ってたわけですが
ご近所の知らないオジサン、オバサンから言われるのは腹が立つ😡
きっと向こうは悪気もなく、軽い気持ちで言ってるのは分かってるんです
ちょっとくらい私も照れて「え~、まだですぅ~」とかあざとく言えれば良いんでしょうが
そこは元クレーム担当の顔がひょっこり出てしまう訳ですよ
「申し訳ありません。ただ今鋭意製作中ですが、何分素材が滞っておりまして……」
これには旦那も含め、みんな沈黙
気まずい空気にいたたまれなくなりました😱
そして、トドメは旦那の妹ちゃん……私の義妹とのやり取り😞
彼女はちょっとだけブラコンが入ってて、私に当たりが強い時があるんですね
「○○さん、早く私も甥っ子が抱きたいな~」
と近所のオジサンたちに乗っかるわけ
いや、甥とは限らんだろ……とか思いながら
イラッときてた私もつい
「そんなに早くオバさんになりたいの~🤭」
ってやってしまったんですよね😰
そんなわけで、その後旦那の実家から緊急待避する羽目になりました
ごめんよ、折角の家族の団欒をぶち壊して🥺
でもさ、私に殊勝な嫁を務めさせるのは無謀な事だって分かってたでしょ?
月の女神と夢見る迷宮 第八十一話
マリスの遺産
重苦しい時間がしばらく流れた後、ニナがようやく口を開いた。
「お父さんと村長の事はその……」
「私たちから話した方がいい?」
「いえ、出来れば……しばらくの間は伏せておいていただけると……私から話した方が良いと思うので……」
気丈にもニナはそう言った。
「……そうね、そうして貰った方がいいかな……」
しばらく考えてから、私たちもニナの意見に同意する。
村人でない私たちが説明しても、村人たちは納得しないだろう。下手をすれば、ニナの父親と村長を殺害したのではと疑われても不思議じゃない。
「……しばらく……1人にして貰ってもいいですか……」
ニナはそう言い残すと部屋を出て行った。
後に残された私たちは、ニナが出て行った後も口を閉ざしていた。何を言っても、今は言い訳にしかならない事が分かっていたから。
「よぉ、しけたツラ並べてんなぁ。そんなに塞ぎ込んでちゃ、す~ぐBBAになんぜ? ベイベー!」
そんな折、隣の部屋からラッシュ爺が乱入してきた。固まった空気がようやく流れ始める。
「お黙りっ! 誰がBBAだってぇーっ!? このセクハラシジイっ!!」
早速チャイムがブチ切れた。この2人、よっぽど相性が悪いのね。
「うーん? マリスのパソコンについて話してたんじゃねーのかい? なかなか呼びに来ないんで、こっちから来ちまったぜぇ」
チャイムをスルーして、ラッシュ爺が私を見た。
「何か分かるんですか?」
「分かるかっていやぁ、そらぁ分かるけどよぉ……」
「封印が出来ると……?」
「いや、それはな……そっちの狼っ娘にも言ったけどよぉ、出来ねぇぜ……」
やっぱりそうなんだ。出来るならとっくの昔、私たちが戻る前にやってるはず。それが出来てないって事は、条件があるのか、そもそも出来ないかのどちらかって事だ。
「管理者権限ってのがあってだな……」
ラッシュ爺の説明は難しくてほとんど理解出来なかったが、要はこのパソコンという物の持ち主にしかできない事があるらしい。このパソコンの持ち主はマリスさんだから、彼女亡き今、管理者は不在という事になる。
「今のコイツの状態は、見かけ上は動いてねーが、陰で動いてるって状態だな。完全にシャットダウンする事は、マリスにしか出来ねーぜ」

「エネルギー切れで勝手に止まる事は?」
フィーナが問いかける。
「そいつは期待出来ねぇーな。こいつのCPUは魔素で動くように改造されちまってる。起動するには電気エネルギーが必要だが、裏で動かしとく分には魔素があれば良いからよ」
「つまり、魔素のない環境を作り出せば止められるのね?」
「理屈ではそうなるが……実際この世界にそんな場所はねーぜ? それに……」
「それに?」
「ホントに止めちまっていいのかも分かんねーしな」
ラッシュ爺は更に続けた。
「マリスのパソコンはな……おそらく世界の理(ことわり)に関与する魔神器になっちまってる……」
この世の中には様々な理が存在する。例えば人には命があるが、アンデッドにはそれが存在しないというのも1つの理だ。そして、ラッシュ爺が言うのには、魔法が存在するというのもこの世界の理の1つらしい。
「マリスの元いた世界には、魔法なんてもんはなかったらしいぜ。それこそおとぎ話の中にしかな……そんかわり……」

「科学技術という物があったんでしょ?」
チャイムが口を挟んだ。
「そうだ。そしてそれは既にこの世界にも浸透しつつある」
王都で見た遠くの映像を見せる技術、テレビ放送とか言ったっけ。それから漫画なんかを印刷するのも科学技術の1つらしい。映画なんかの娯楽や自動洗浄トイレ、建築なんかにも科学の力が取り入れられてるんだそう。
「もしよ、こいつを完全にシャットダウンしたら、それらの技術が消えちまう恐れがあるのよ……ロストテクノロジーってヤツよ。だから無闇に壊すことも出来ねぇ」
この世界を便利にしている物が、明日から使えなくなるとしたら。確かに困ってしまう。でも、それなら何故……
「何故マリスさんは、それを封印するようにって言い残したのかな?」
私は頭に浮かんだ疑問を口にした。
「それは……」
フィーナが言いよどんだ。
「ミズキとかいう坊主がよ、マリスの造った銃を持ってたよなぁ……。あれ見てどう思った?」
「攻撃魔法と同じくらい、強力な武器だと思いました」
「魔法はよ、誰でも使える訳じゃねーよな? 素質とか魔力量とか……後、適性ってもんもあるだろ?」
そうね。誰しもが魔法を使える訳じゃないし、使える魔法も人によって違う。
「けどよ、銃ってのは訓練すれば誰でも使える。大人も子どもも関係なくな」
あぁ……そういう事……。ファクトリーの中で、たくさんの銃を見た時の恐怖感が甦る。あれが世の中に蔓延ってしまったら、人々の平和な生活が脅かされるのは想像に難くない。
「マリスのパソコンの中にはよ、もっとヤベーもんがデータとして残されてるのよ。それこそ世界を滅ぼしかねない武器とか色々とな……」
銃より強力な武器……そんなのを世に出すわけには行かない。マリスさんはそう考えたのね。

「その危険な武器のデータ? だけを消すことは出来ないの?」
今まで沈黙していたお嬢様が口を開いた。
「それをするのには管理者権限が必要なんだよなぁ……」
マリスさん──管理者が不在の今は、それも出来ないのね。危険な物を消すために、便利な物まで消してしまうか……それとも便利な物を使う為に、危険な物と同居するかの二択。マリスさんの残した遺産は、厳しい選択を私たちに突き付けて来ていた。
「そもそもマリスもな……このパソコンを他のヤツらが使えるようになるとは思ってなかったからよ。危険なデータを放置しちまったんだろうなぁ……」
「……それなのよね……」
フィーナが心底不思議そうに呟いた。
「どうしてこのパソコンを、急に他の魔物達が使えるようになったんだろう……」
え? 感能力の高い魔物が、マリスさんの心の奥底にしまっておいた秘密を読み取ったんじゃなかったっけ? フィーナ自身がそう言ってたよね?
「それはそうなんだけどさ……感能力の高い魔物が、必ずしも知能が高いとは限らないじゃん? いや、むしろ逆の傾向が強いわ……考えるな、感じろってヤツ」
あぁ、なるほど。私の視線が自然とお嬢様の方に引き寄せられる。考えるな、感じろって人の典型だからね、お嬢様は。例えその秘密を知ったとしても、それを使いこなせる知能がないとって事ね。

「じゃ、まぁ、そういう事で。お役に立てなくてソーリー、ソーリー、アイム ソーリー……」
そう言ってその場を離れようとするラッシュ爺の腕を、チャイムがガシッと掴んだ。
「ちょっと待ったっ! クソシジイっ、あんた……何か知ってるんでしょっ!?」
チャイムが鋭い目つきでラッシュ爺を睨んでいる。
「い、いや……オイラはなんも知らねーぜ……アイ ドント ノーだぜ……」
ラッシュ爺の目が泳ぎまくっている。
チャキッ!
お嬢様が剣を抜き、ラッシュ爺の首元に突き付けた。
「1ミリずつ切り刻む方がお好み? それともひと思いにバッサリいく方が良いのかしら? もしも……そうなりたくなかったら……知ってる事を洗いざらい喋りなさいっ!!」
お嬢様の圧力に屈したラッシュ爺が、ポツリポツリと語り始めるのは数分後の事だった。
マリスさんのパソコンには、様々なデータが記憶されていた。その中にはセンシティブな映像とかもあったそうだ。まぁね、彼女も人間だからさ……そういう欲があったとしても不思議じゃないわよね。
で、その事に気づいたのがラッシュ爺だった。ラッシュ爺はマリスさんの目を盗んで、密かにその映像を楽しもうとしたらしい。
そうして元々知能が高かったラッシュ爺は、マリスさんのパソコンの操作に精通していったんだそう。エロパワーの成せる技って恐ろしい……
しかし悪いことは出来ないもので、ある日マリスさんにそれがバレた。その結果、激怒したマリスさんから、ラッシュ爺は解放されてしまう。追放という形で。そりゃまぁ……乙女のデリケートな秘密が暴かれたのだ。追放くらい食らうわよねぇ……
その時のすったもんだの経緯を、チャイムも見ていたらしい。だから今、エロジジイ許すまじとなってる訳か……
「で……マリちゃんのパソコンを盗み出したのもあんたって訳ね?」
チャイムがラッシュ爺の襟首を掴んで、ガクガクと揺さぶりながら詰問する。
「観たかった……あの映像を……ワンモア プリーズ……」
盗み出したはいいものの、電気エネルギー不足で起動出来なかったラッシュ爺。マリスさんから逃れる為に訪れたダンジョンの中で、黒狼族の長老に捕らわれてしまう。
命と引き換えに、パソコンの使い方、起動させる為に必要な電気エネルギーを得る方法を教えるように要求され、渋々従う事になったそうだ。
その後、黒狼族がパソコンを起動させた事によって、その所在が管理者であるマリスさんの知る事となる。彼女と彼女のパソコンには何らかの繋がりがあり、起動させると所在が分かるようになっているらしい。
そして、パソコンを取り返しに来たマリスさんと黒狼族が戦っているどさくさに紛れて、黒狼族の里から逃げ出す事に成功したラッシュ爺は、追っ手を恐れてシーオーシャンから海外に逃亡したんだそう。そこでしばらく過ごした後、ほとぼりが覚めたのを見計らってここにやって来たのだ。
「やっぱり手足を縛って山に捨てて来てやるっ!」
激昂するチャイム。
「そんなのまどろっこしいわっ。この場でマリスの所に送ってやるっ!」
フィーナもそれに追随した。
ガタッ……
その時、物陰から音がした。みんながその方向を見ると、そこにはセージとローズマリーが震えていた。
月の女神と夢見る迷宮 第八十話
ラッシュ爺

さわさわさわさわ……シャリ……
私とお嬢様とチャイムが睨んでいるのに、ラッシュの手が止まる事はなかった。
「そろそろ気が済みました?」
私のこの言葉に、お嬢様とチャイムが驚いたように私を見る。まぁ、この状況で悲鳴もあげない、制止もしない、怒りもしない方がおかしいんだろう。でもまぁ……
「うーん、ワンモア?」
さわさわさわさわ……シャリシャリ……
「セージとローズマリー……お孫さんたちが哀しそうな目をして見てるんですけど?」
ピタッ
ようやくラッシュの手が止まった。
「ソーリー、お嬢さん。しかし、これはなかなか……素晴らしいモノだな……」
「分かりますかっ? これ、凄いんですよっ!」
私は勢いこんでそう言った。
私が何故これ程までに冷静だったかと言うと、アーマーの下に秘密がある。私は普段からアーマーの下に鎖かたびら──チェインメイルを着用しているのだ。
形態は競泳水着みたいな感じで、トップスからアンダーまで一繋がりになっている。これによって殆どの衝撃や不快な感覚はキャンセルされるのだ。
ラッシュの手の動きは、私のこのチェインメイルの品質を確かめるような動きだった。最初に触られたときは驚いたが、過度に嫌らしい動きはしなかったので放置したのだ。
「これは王都の鍛冶屋で……?」
ラッシュが尋ねる。
「それも分かっちゃうんですか? 凄いですね!」
私はついつい大きな声で叫んでしまった。このチェインメイルはお気に入りなのだ。私がお嬢様に着いていくよう密命を受けた時、旦那様から与えられた物。王都でも有名な鍛冶師に注文して造らせたという特注品なのよ。
「これはアダマンタイトを織り込んでるね……メイビー。それをこんな風に加工できるとは……これを造った鍛冶師はジーニアスだ」
アダマンタイトという金属は、ミスリルよりも硬い。魔力の伝導性が低いので、武器には適さない金属である。魔法がエンチャントし辛いからね。でも、逆に魔力を通さない──魔法防御力が高いから、防具には最適なのよ。
ただし、そんなアダマンタイトにも欠点はある。まず、何よりも産出量が少ない。 その為もの凄く貴重であり、アダマンタイトで造られた物はすべからく高価である。
また、とても硬い為、思ったように形状を変化させるのには、かなり高度な技術が必要なのだ。それこそ、王都でも加工出来る鍛冶師は少ないのよね。

「そっちの彼女は着用してなかったようだが?」
ラッシュがお嬢様の顔を見て言った。
「アタシも持ってるわ。持ってるけど……着れなくなっちゃったのよ」
お嬢様が悔しそうに呟いた。
……そうなのよね。王都の鍛冶師が造ったのは2揃い。屋敷を出る時に、お嬢様の分も私が預かったのよ。その頃の私とお嬢様は、体型もほぼ同じだったから、サイズもちゃんと合っていた。
でもね、冒険に出てからお嬢様の体型が変化したのよね。その……胸の部分がね……育っちゃってね……入らなくなっちゃったのよ。サイズを直そうにも王都に戻らなくちゃ直せないからさ、現在お嬢様は着用できないんだよね。くっ……この格差はどうして生まれたのっ?
「とにかく……こういう行為はこれから慎むこと。セージやローズマリーの教育にも良くないわ」
お嬢様が咎めるように言うと
「済まなかった、これからはもう多分しない。パードンミー」
ラッシュは素直に頭を下げた。でも、多分なのね……
「さっきから良く分からない言葉が時々混じるんですけど、それはどこの言語なんです?」
と私が疑問に思っていた事を聞くと、ラッシュは王国の東──海の向こうの国の言葉だと言う。
「シーオーシャンから船に乗って海を渡るんだ。するとまたでっかい大陸があってね……」
ラッシュが語る海の向こうの国の話は、私たちをワクワクさせるものだった。私たちは目をキラキラさせながら、彼の話に聞き入った。
そうしてしばらく彼の話を聞いた後の事。ようやく彼に対するわだかまりも解け、ルナティシアの面々も自己紹介をする事に。
「私はミズキです。一応パーティーリーダーをしています。今後はウチの女性陣に失礼な事をしないようお願いします」
「俺はライト。雇われ剣士だ。次は思い切り行く。以上」
「ヨシュアです。ヒーラーやってます。女性しか癒やせませんけど……」
「シルヴィです。あの……エッチなのとロリコンはいけないと思います……」
「らぱん……ちゃいむ……たちと……しまい……おしまい……」
「ミントだよ。おじいちゃん、女の子を触ったら逮捕なんだよ?」
「アタシはディアナ。さっきの体勢を入れ替える技を後で教えて?」
「シーナです。これから色々とお世話になります」
「俺はラッシュだ! ラッシュ爺と呼びな、ベイベー!」
うーん……このノリはよく分からないし、スケベだけど悪い人ではなさそうね。

自己紹介が終わり、それぞれがラッシュ爺と話し始めた。するとチャイムが私の側に来て話しかけて来た。
「しーちゃん、何となく許しちゃったけど良かったの? 何だったら手足縛って、山の中に捨てて来ようか?」
なかなか怖い事を言うチャイム。まぁ、昔からの因縁もあるんだろうなぁ……
「まぁね、あんまり騒ぎ立てるとセージとローズマリーが可哀想だし……それに、こんな言い方は変かも知れないけど、慣れてるのよね。お嬢様も私も」
そう、シャロン家当主──旦那様もスキンシップが激しい方だったのよ。幼い頃から結構な頻度でハグされたり、体中を撫で回されたりしてたわ。まぁ、さすがに女性の尊厳を傷つけるような事はしなかったけどね。
「チャイムだって出会った時は酷かったわよ。抱きついてきて、押し倒してきて、舐めまくってきたじゃない?」
「ちょっ、言い方っ!」
まぁ、少し誇張はあったけど事実よね?
「あ、あれは、違うじゃんっ? ラッシュ爺みたいにセンシティブなヤツじゃないじゃん? それに同性だしっ、兎の姿だったしっ」
「あの時の私は同性だと知らなかったわよ? それに純粋に危険度で言えば、魔物に押し倒される方がヤバいんじゃない?」
いつもチャイムに揶揄われている私は、ここぞとばかりに反撃した。
「ま、まぁ……それはそれとして……」
あ、不利と見て逃げたわね。
「あっちの部屋でフィーちゃんとニナが待ってるの。ディーちゃんと一緒に来てくれる?」
あぁ……そうだったわね。フィーナとはマリスさんのパソコンについて話す必要があるわ。そして……ディアナお嬢様はニナにイーの事を告げなくてはならない。私は少し重い気持ちに囚われながら、お嬢様に声をかけた。

「……そうですか。お父さんがそんな事を……」
今更隠しても仕方がないという思いから、私たちはイーの正体やシューとの関係、その他諸々について包み隠さずニナに話した。お嬢様がイーにトドメを刺したことも。
ニナは黙って聞いていた。そして遠くを見つめながら話し始めた。
「私、孤児だったんです……」
ニナはアルカスで生まれた。彼女の両親はアルカスで宿屋を営んでいたらしい。そしてあの疫病で亡くなったのだ。その結果、彼女1人が町の中に残された。
「私はお父さんが……イーが本名なんですね……くれたポーションで奇跡的に回復したんです。でなければ、本当の両親のように……」
アルカスでシルフィからポーションを受け取っていたイー。彼はたまたま町中で、疫病にかかった1人ぼっちのニナを見つけたのだ。そしてシルフィから受け取ったポーションでニナを治療した。いずれは自分の眷属にする為に……
町中に疫病が溢れるような状況で、幼い少女が1人生き残るのは難しかっただろう。イーが手を差し伸べなかったら、ニナは死んでいたに違いない。例えそれが打算によるものだったとしても、小さな命を救った事には違いないのだ。
「お父さんが、私に何か隠し事をしているのは、何となく感じていました。でも……そんな事を企んでるとは思わなかった」
ニナは遠くを見ていた視線を戻し、俯いた。
「冒険者の人たちや、村長さんと夜中まで相談してたのも知ってます。でもそれは、カルム村の発展に繫がる事を話し合ってるとばかり……」
スキー場の拡張、それに伴う観光客の増加。それを見込んでニナと2人で宿屋をやる事にしたイー。ニナの目には本当に良い父親像が映っていたのだろう。
「たまに私の事をギラギラした目で見る事がありました。今思えば、血を吸おうとしてたんでしょうね」
でも……とニナが続ける。
「私が『なぁに?』って聞くと、辛そうな顔をして『何でもないよ』って言って……」
イーは葛藤していたのかも知れない。ニナと一緒に暮らすうちに、情が移ってしまったのかも。それで眷属にするのを躊躇ってしまったのだろうか。イー亡き今、それを確かめる術はないけれど……
「ごめんね。アナタのお父さんを奪ってごめんなさい……」
お嬢様がその目に涙を浮かべながら言った。
「……今は……でも……」
ニナも目に涙を浮かべながら、ようやくそれだけを絞り出すかのように呟き……私たちの間にしばしの沈黙が訪れた。
月の女神と夢見る迷宮 第七十九話
お前ら、最高だぜ~っ!
アルカスを出てから三日後、私たちはキューラビランド(仮)まで後少しという所まで来ていた。これは行きのペースよりもかなり早い。
『しーちゃん、早く帰ってきてぇー!』
というチャイムの要請があってからすぐ、私たちルナティシアの一行はカルム村に向かった。多分、他の冒険者たちよりずっと早いペースで歩き続けて来たと思う。
当初の予定だと、後数日はかかるはずだった。シルヴィの事を考えると、無理は出来ないと思っていたからだ。でもそんな予測は外れた。シルヴィが思いの外頑張ったのだ。
「シルヴィ、ちょっと休もうか?」
と私たちが声をかけても
「全然大丈夫です。まだ行けます」
という答えがいつも返ってくる。もちろん、時にはミズキさんの背に負ぶわれる事もあるんだけど、それはスピードの問題があるからで、疲れを気にする素振りが全くないのよね。
私の従魔になった影響なのかなと不思議に思ってたんだけど、最近になってその秘密がようやく判明したの。
「シルヴィってホント体力あるわよねぇ」
とお嬢様が呟いた時の事だった。
「いえ、そんなにある方ではないですけど」
とシルヴィが答えたの。
「でもさ、全然疲れた様子がないじゃない?」
と私もシルヴィに話しかける。すると
「あ……それは……」
シルヴィがチラッと視線を向けた先……そこにいたのはヨシュアだった。その時私はピンと来たの。
「あーっ、そういう事!?」
「はい、そうなんです……」
シルヴィが恥ずかしそうに答えたの。
つまりはこういう事。シルヴィが疲れる素振りを見せる前に、ヨシュアが回復していたのだ。よく考えてみれば分かる事だった。フィーナやルシファーを回復できるヨシュアなら、それは容易い事だったのだ。
「あ、もしかしてアルカスからパーリまで行くときも……」
あの時もシルヴィは不思議な程元気だった。
「はい……」
そっか……もうそんな前から2人は仲良しさんだったのね。あ、もしかして……

「シルヴィがポーションでヨシュアを回復させてあげてたり?」
「はい……実は……」
なるほどね。ヨシュアも冒険者としては線が細い感じの子だ。それが今回の強行軍に難なく着いて来られたのは、そういうカラクリがあったからなのね。
「いつも2人でカバーし合ってたんだ。良いコンビよねぇ……」
お嬢様がニヤニヤしながらそう言うと、シルヴィの顔が真っ赤になった。え……真っ赤……?
「シルヴィ、アナタ顔が赤いけれど……」
「もうっ! シーナさんまでっ。知りませんっ!」
「アナタの血って……赤いままなの?」
私がそう聞くと、お嬢様が
「え? そっち……?」
と言い、シルヴィも目が点になっていた。
『ママ……ないわ~、それはないわ~』
「しーな……にぶはら(鈍すぎハラスメント)……」
上空のミントと、横にいるラパンから何故か呆れられてしまったんだけど。解せぬ……
まぁ、取りあえず……そういう事なら今後の旅の心配が一つ減ったわ。急いで行くわよ……ふんっ!
数時間後、私たちルナティシアの一行はキューラビランドに着いた。
「驚いた。立派な建物がいっぱい建ってるわね……」
私たちがここを出るときにはなかった建物が、何棟も建てられている。
「チャイムたちはどこにいるのかな?」
そう言いながら事務所らしき建物の中に入る。すると、突然何者かが私に向かって跳んできた。

「しーちゃん、危ないっ!」
「ひゃっ!」
チャイムの叫び声とともに、私は何者かに抱きつかれた。そんな……こんなに簡単に懐に入られるなんて不覚だ。私は次に来るであろう攻撃に恐怖する。敵はどこを狙ってくる? 首?……それとも心臓?
しかし私の思いをよそに、そうした攻撃はいつまで経っても来なかった。その代わり
さわさわさわ……
何者かの手が私のお尻をなで回すのが感じられた。
「んっ……なにっ……?」
「しーちゃんを離せーっ、このエロじじいっ!」
チャイムが何者かに跳び蹴りを食らわそうと跳ねる。するとソイツは私の体から離れ、スルリとチャイムの蹴りを躱した。
「ハーハッハッハ……ユー!お前もまだまだネっ!」
そう言いながら後退るのは歳を取った兎人……いや、もしかしてチャイムたちと同じキューティーラビット?
シャキンッ!
そのウサ老人を後ろから羽交い締めにしたお嬢様が、首筋に剣を突き付けた。
「おイタが過ぎるとケガをするわよ? お・じ・い・ち・ゃ・ん……」
目が笑ってなくて怖いです……お嬢様……

「しーちゃん、大丈夫? 変なところ触られなかった?」
近寄ってきたチャイムが私に話しかける。
「触られたけど大丈夫よ。アーマーの上からだから」
そう、冒険者は普段分厚いアーマーを装着しているからね。特に乙女にとって大事な部分はちゃんと守られているのよ。
「ひゃあっ!?」
その時お嬢様から悲鳴があがった。
「おおーっ、やわらかでアール。ビッグでアール」
声のした方を見ると、どうやったのかは分からないけど、ウサ老人とお嬢様の位置が入れ替わっていた。そしてウサ老人の手がお嬢様の胸元に入り込んでいる。アーマーの隙間から……
「こんのぉーっ!」
お嬢様がブチ切れて、ミスリルソードを振り回す。ウサ老人がそれを間一髪躱す。その後、凄まじい攻防が繰り広げられた。しかし、そんな激しい戦いにもやがて終止符が打たれた。
ゴンッ!
ライトさんが軽く振り下ろしたボーンソードがウサ老人の頭を捉え、ウサ老人は床に沈んだ。
「ライト、ナイスっ! コイツ切り刻んでやるわっ!」
「待って下さいっ、お嬢様っ!」
私は慌ててお嬢様を止めに入る。胸を触られて激高しているお嬢様は
「退いてシーナっ! そいつ殺せないっ!!」
と私に叫んだ。
「殺しちゃダメですっ、お嬢様!」
私はある一点を指差しながら言った。そこにはセージとローズマリーが、オロオロしながらこちらをうかがっていた。

「で……コイツは何者なの?」
床に伸びているウサ老人を指差しながらお嬢様が苦々しく吐き捨てた。
「コイツはねー……ラッシュと言うんだけど、変態セクハラクソジジイよ」
うーん、なかなか酷い紹介文だ。
「で……?」
この人はアレよね?
「そう、セージとローズマリーの祖父になるわ。そして、マリちゃんが……」
「初めてテイムした魔物なのね?」
うん……とチャイムが頷く。
実は……私はチャイムからリンチャで話の概要を聞いていたの。だからまぁ、想定内の出来事だったんだけど、まさかお嬢様があそこまでやられるとは……
「あんなに不覚を取ったのは初めてよ。今でも生きた心地がしないわ……」
なるほどね。どちらかと言うと、お嬢様の怒りは胸を触られた事よりもそっちなのね。つまりあれが敵だったら、心臓をグサリと刺されていたかも知れないって事。乙女として辱められたからではなく、冒険者としてのプライドが傷つけられたから激怒しているんだ。お嬢様らしいわね。
「確かに……身のこなしが普通じゃなかったですね」
「そうなの、いつの間にか体勢を入れ替えられてたわ。どうやったのか、今でも訳分かんないわよ」
「フィーちゃんもそう言ってたわ。あれは並の変態じゃないって……」
フィーナも被害に遭ったのね。狼にセクハラする兎かぁ……なんかシュールだわ。
「それで……マリスさんのパソコンについては何か分かったの?」
「それなんだけどねぇ……」
さわさわさわさわ……
「ひぅっ!」
その時、またお尻を撫で回される感触が私を襲った。今度はアーマーの隙間から直接手が入り込んでいる。その手が伸びる方向を私が睨みつけると、気絶から目覚めたラッシュがニヤリと笑っていた。
「お前ら、最高だぜ~っ!」
人のお尻を撫で回しながら、ラッシュがそう叫んだ。
月の女神と夢見る迷宮 第七十八話
新たなる旅立ちに向けて
「お母さん……ごめんなさい……」
シルヴィがルシファーに向かって小さな声でそう言った。
「分かっておるよ……シルフィ……いや、シルヴィ」
そしてルシファーがその言葉に答える。その途端シルヴィの顔がパアッと輝いた。
イーを倒した私たちは、ルシファーとともに死者の町へ戻った。ルシファーはこのまま死者の町で暮らし、カスロンが来るのを待つそうだ。ルシファーが抱いていたカスロンへの誤解は、シルヴィの説明で解くことが出来ていた。
死者の町に着いて、この後シルヴィはどうするかって話になった。シルヴィの希望は、私たちと一緒に冒険を続けたいって事だったけど、ルシファーがどう言うかという心配があった。彼女は一応シルヴィの保護者だからね。
で、シルヴィは自分の希望をルシファーに話して、冒険を続ける許可を貰おうとしたわけ。そして、ルシファーの答えはOKだった。良かったわね、シルヴィ。
「でもどうやら……目的は冒険だけではなさそうじゃがなぁ」
ニヤニヤしながら付け加えるルシファー。その言葉を聞いて、シルヴィの表情がふくれっ面に変わった。
「お母さんっ!」
「まぁ、妾にも経験がないわけではない。花の命は短くて……じゃ。巻き込んだ妾の言えることではないが、今までの分を取り戻せるように悔いなく生きよ」
そうね……シルヴィにとって今までの人生は、決して幸せなものではなかった。でも、これからは私たちと一緒に探そうね……シルヴィ自身の幸せを。
「お母さん……」
今度はシルヴィの瞳に涙が浮かんだ。
「まぁ、そんな湿っぽくならなくてもさ、また立ち寄ると思うわよ」
お嬢様がそう話す。
「そうですよ。また来ます……お母さん」
ヨシュアもそう言った。それを聞いたルシファーは目を細めた。
「娘をよろしく頼む」
ルシファーはそう言うと、そっと目元を拭った。

「色々ありがとうございましたー。特にディアナ姐さん、このご恩は一生忘れませぇんっ」
「ディアナ姐さんって……。ユン、あのさ……アナタって幾つ?」
「来月で十六歳になりますぅ」
なるほど、イーがユンの首筋を見てたってのは本当のようね。この娘だけは、ぎりぎりストライクゾーンに入ってたんだ。
「これからどうするの?」
「一度パーリのギルドに戻ります。『光を呼び覚ます者』から脱ける手続きをしないといけないんでー」
「あー、なら……」
私はユンに手紙を託すことにした。 バーバラさんに向けたもので、イーと『光を呼び覚ます者』の事、ユンは単に巻き込まれただけという事などを綴った手紙だ。
「これ持ってけば話が早いと思うわよ」
最終的にお嬢様がトドメを刺したとは言え、ユンも一緒になって戦った事には違いない。ヴァンパイアハンターとして、ギルドもそれなりに評価してくれるだろう。
「何から何までありがとうございますぅ。アンデッドの事で、私が手伝える事がありましたら是非声をかけて下さぁい」
「分かったわ。その時はお願いね」
こうして、ユンはパーリへ向かって旅立って行った。

「ちょっといいかい?」
ユンと別れた直後にミズキさんから声が掛かった。
「何ですか、ミズキさん?」
「うん、実はね……」
ミズキさんが話しに来たのは『光を呼び覚ます者』たちの事だった。何でも様子が変らしい。
「まるで人が変わったように見えるんだ」
イーを倒した後、彼らの処遇について私たちは話し合った。一番良いのはパーリへ連れ戻ってバーバラさんに引き渡すこと。でもそれは、私たちにとって後戻りを意味する。正直に言ってダルい。
では、ユンに連れて行って貰うか。これはユンが危険過ぎる。なので却下だ。
結局死者の町でしっかりした監視の元、パーリからお迎えが来るまで捕縛しておく事になったのだが……
「人が変わったってどういう事よ?」
お嬢様も不思議そうに聞く。
「それは……まぁ、実際に観て貰った方が早いな」
ミズキさんの言葉で、私たちは彼らの元に向かった。
これは……確かに様子が変だ。ミズキさんが困惑するのも頷ける。
「ねぇ、何であの人たち外に出てるの?」
彼らは牢に監禁されていたはずなんだけど? お嬢様が心底訳が分からないという顔でミズキさんに聞く。
「それがね、昨日彼らから申し出があったんだよね」
私たちの目の前には、何故かゾンビとともに町造りを行う『光を呼び覚ます者』たちの姿があった。
前回私たちに敗れた時も、彼らはルシファーの元で町造りを手伝わされる事になった。しかし、彼らは頑として受け入れなかったらしい。特にリーダーと黒鎧の戦士は、食事さえもほとんど取らずに抵抗していたと聞いている。それが今は進んで働いてるように見えるんだけど……
「一応私とライト、ラパンの3人で監視は続けてるんだけど、何か企んでるって感じでもないんだよね」
「いつからこんな感じなんですか?」
「町造りをしたいと言ってきたのは昨日なんだけど、少し前から反抗的な感じはなくなってたね。そうだな……」
どうやらイーを倒してから、少しずつ変わっていったみたい。
私たちがそんな話をしていると、女魔法使いが私たちを見つけ、側にやって来た。

「あの……今まで色々とごめんなさい。信じて貰えないのは分かってます。でも、私たち……この前まで自分の考えで行動してなかったというか……」
あー、これはもしかしたら……
「何であんな事したのか、頭がモヤのようなものに包まれてた感じで……自分でもよく分からないんですが……」
多分間違いなさそうね。
「多分ですけど……この人たち、イーに洗脳されてたんじゃないかと思います」
恐らくは……イーの最大の能力は、人を洗脳し、操る事だったんじゃないだろうか。決して武闘派ではない彼が、『光を呼び覚ます者』たちを従えていた理由も、それなら分かるような気がする。そしてイーが滅びたが為に、彼らの洗脳が少しずつ解けてきたのだろう。
それに、パーリの街のマスコミを操って、情報操作をしていたのも彼の仕業だったんじゃないかな。側近たちもほとんどが洗脳されていて……だから20年近くもシューの政権が続いたのだ。
けれど側近の内、唯一洗脳されなかったのがアンナさんだった。彼女はハーフエルフだからレジスト能力が人より高い。そう考えると筋が通るわ。
「議員全員が洗脳されてなかったのは幸いだったわね」
お嬢様がそう呟いた。
そうなっていたら、事件が明るみに出た時にシューが更迭されることはなかっただろう。多分、操れる人数に制限があったんじゃないかな。イーが滅びた今、それを証明する手立てはないけど。
「あの……今はとっても心が軽い気がするんです。何かみんなの役に立つことをしたいというか……」
自分自身を取り戻したって事みたいね。何にせよ良かったわ。
「しばらく様子を見るようにって、ルシファーにも言っておきましょう」
こうして当面の問題は解決したように思える。後は私たちが今後どうするかなんだけど……
「一度カルム村に戻りますか? それとも……」
今ここには、ルナティシアのメンバー全員が揃っている。パーリでもやったけど、パーティー会議ってやつだ。
「牧場の方はどうなってるの?」
お嬢様が私に尋ねた。私はチャイムから聞いている情報を、みんなに掻い摘まんで話す。
「まだ少しかかるって事だね」
牧場の方はほぼ準備完了したらしいんだけど、テーマパークとしての準備にまだかかるらしい。チャイムの事だ。きっとこだわりがあるんだろう。

「ニナの事はどうするんですか?」
ヨシュアが皆に問いかける。
「ニナ……さんって誰です? 女の人ですか?」
何か……シルヴィの表情がなくなってるんだけど。どうしたの!?
「あー、カルム村で宿屋をやってる娘よ。イーに引き取られて育てられたって娘」
何故か……お嬢様が焦ったようにシルヴィに説明した。
「うん、彼女も天涯孤独になってしまったしね。やっぱり義理とは言え、父親の事を黙ってる訳にもいかないか……」
そうね、彼女がイーにどんな気持ちを抱いていたかは分からないけど……仮にも家族だったんだから。きっと彼女には知る権利があるわ。
「うん、アタシも彼女に会って話したい。言い訳にしかならないかも知れないけどね」
イーにトドメを刺したお嬢様が言った。
「ということで、カルム村に戻るって事でいいかな?」
ミズキさんがそう締めくくった時だ。チャイムから突然のリンチャが入る。
『しーちゃん、大変よ、大変っ! ヘンタイがタイヘンなのっ!!』
な、何事っ!? 困惑した表情を浮かべる私に、みんなの視線が集まった。