田舎の猫 大乱闘
「音子ちゃぁんっ!」
メイが叫んだ。
「メイごめんっ、止めないでっ!」
師匠と並び立ちながらメイに向かって叫ぶ。
「もう止めないわぁ。というかぁ、私もぉ……やる」
へ? メイってそんな沸点の低いキャラだっけ?
「私もぉ、ちょっと頭に来てるのぉ。ここはアオちゃんと出会った思い出の場所なのにぃ……」
なるほど、友だちとの思い出の場所を壊されたくないって事ね。メイらしい理由だわ。生徒会の面々は既にステージから避難しているし、遮るものは何もない。
私と師匠は威信軍団へ視線を向けた。
「貴様らぁっ、ワシに逆らうとただじゃおかんぞっ! 威信軍団の皆さん、やっちゃって下さいっ!」
副知事が威信軍団に向かって言った。
「威~ッ!」
威信軍団の皆さんが変な声で応えた。
「その喧嘩買った~っ!」
嬉しそうに言う師匠。
「誰に喧嘩を売ったか教えてあげるわっ!」
私も続く。
観衆が取り囲む中、威信軍団と私たちとの戦いが始まった。
「音子は右をお願いっ!私は左翼を叩くっ!」
師匠が弾丸のように飛び出していく。威信軍団は怪しい踊りをしながら近づいて来る。そこへ師匠がドロップキック。数人が吹っ飛ぶ。
私は副知事を取り囲むようにしているヤツらにショルダーアタックをぶちかました。しかし体重差があるため、倒すまでには至らない。
「んっだらぁっ!」
左足をぐっと踏ん張り、右のハイキック。今度は1人ぶっ飛ばす事ができた。そのまま体を捻って隣の男に左の回し蹴りを食らわす。これで2人目。こうして大乱闘が始まった。
師匠と私は縦横無尽にショッ……威信軍団の間を駆け回り、次々と倒していく。しかしヤツらはタフで何度も甦ってくる。
「キリがないわね……」
師匠の声にも疲れが見え始めた。するとその時どこからともなくメイの声が。これは……
「夕暮れよりもぉ、昏きぃ舞いぃ……」
ちょっ……ここでそれぶっ放すのかっ!?
「メイ待ってっ! ここで全力はマズいっ!」
「音子ちゃぁん、退いてぇ~っ! ドラゴンブレイブっ!!」
「「あ……」」
師匠と私の声が被った。メイの放った魔法は威信軍団の頭上を越え、湖の中に吸い込まれていった。そして一瞬の静寂の後、湖の中心で爆発が起こった。だからさぁ、セーブしろって言ったじゃん……
「おのれぇっ、絶対に許さんっ!」
飛び散った水を盛大に浴びた副知事が怒鳴り声をあげた。
「威~っ!!」
威信軍団の皆さんも奇声をあげる。
「はぁ~っ、仕切り直しか……」
私がそう呟きた途端湖の中心が沸き立ち、そこから現れたのが──
「なっ、ブ、ブルードラゴンッ!」
副知事が脅えた声で叫んだ。威信軍団の皆さんも狼狽えている。
あー、これってアオちゃんの事を何も知らなかった感じ?
観衆はアオちゃんの事を知っているので「おお~っ」なんて声をあげている。中には「たぁまぁやぁ~」なんて叫んでるお調子者もいる。いや、それは違うだろ……
「ちゃおおおおおおんっ! おおんっ!!」
ノリノリでアオちゃんが雄叫びをあげる。首が後2つ欲しいわね……
その途端、副知事を始め威信軍団の皆さんが踵を返した。
「撤退っ! 撤退だっ!!」
副知事が叫んだ。しかしその声は背後から現れた声にかき消された。
「狼狽えるなっ! 馬鹿者っ!!」
背後から現れたのは──ため池マ……もとい、騒ぎの元凶であるパワハラ知事だった。