答えなんて最初から決まってる
「お嬢様が行くなら私も行きますっ!」
「シーナ……無理はしなくていいのよ? これはアタシの我が儘なんだから」
「お嬢様、私はお嬢様の従者ですっ。お嬢様が行くのに、私が行かないなんて事はあり得ませんっ!」
私は声を震わせながらそう訴えた。
「ミズキさんは?」
「若い2人に任せて、自分は行かないという選択肢はないよね。年長者として最後まで引率するよ」
ミズキさんはニヤリと笑いながらそう言った。ミズキさんは私と同じでお嬢様の護衛なのだから当然そう言うわよね。
「僕も行きます。僕もこのパーティーの一員ですから。それに1人で村まで戻れる自信はないですからね」
とヨシュア。ヨシュアがいるのといないのとでは、私たち女性陣の生存率が変わって来るから有難いわ。
「俺は雇われの身だ。お前たちまで危ない事に首を突っ込む必要はないんだぞ」
ライトさんが戸惑うように言う。
まぁ、こうなるだろうとは思っていた。ライトさんが行くと言った時点で、答えはきまっていたようなものだ。何だかんだで私たちは既に、お互いかけがえのない存在になっていたのだ。1人だけ困難に立ち向かわせたりはしない。
「ライトに支払うお金を稼ぐ必要もあるし、尚更引くわけには行かないわよね」
最後にお嬢様がそう締めくくって、私たちは進むことを決定した。ライトさんは「勝手にしろ……」とぶっきら棒に言ってはいたけれど、どこか照れてるような感じを匂わせていた。そのツンデレな姿にちょっと萌えたのは内緒だ。
「里まではアタイが案内するよ。急げば先回り出来るかも知れないからね」
ヨシュアに回復して貰ったフィーナがそう言った。さっきまではボロボロだった彼女だったが、気力体力共に回復したようだ。うん、こうしてみるとなかなかの美少女ね。
「ラパンもミントもいい?」
「つぎ……あいつ……たおす……」
「わたしはいつでもままと一緒」
何かラパンが異様に燃えてるんだけど。いつもクールなラパンにしては珍しいわね? 頼もしいけどさ。
私たちはフィーナの案内で先を急いだ。いつ黒狼族が襲ってくるか分からないから、ミントに空からの哨戒をお願いした。このフィールドはとても広大で、なかなか進むのに時間がかかったけれど、それでも数時間後には無事に森を抜けることができた。
森を抜けると、そこは岩肌が露出した山岳地帯だった。
「こんなところに里があるの?」
そうフィーナに問いかけると
「山の中腹辺りに洞窟があって、その奥に黒狼族の里があるんだ」
と答えてくれた。
「コボルドのような感じだね」
ミズキさんがそう言う。確かにコボルドは洞窟を住処としている事が多いから似てるわね。
「そうなると、待ち伏せがやっかいだな。洞窟内ではミントの偵察範囲も狭まる」
ライトさんの言葉に私は肯いた。洞窟のような狭いところでミントを先行させるのは危険だ。今までは敵の攻撃を避けられるスペースがあったから良かったんだけどね。
それに、ここまで出会わなかった黒狼族の長が戻って来ている可能性が高い。ヤツにミントのライトニングが効かないのは、前回の戦いで証明されてしまっている。
「そうなるとラパンの耳が頼りね」
お嬢様の言葉にラパンが肯く。
「まか……せろり……」
いつもより気合いの入ったラパンの耳がピクリと動いた。
「ここよ……」
フィーナが指差した所は一見すると何もなかった。でもじっと目を凝らして見ると、岩肌の一部が他とは異なる場所がある。私たちは岩陰に隠れそこから様子をうかがった。
「カモフラージュの魔法がかけてあるの。入り口はアタイたち人狼族にしか見えないようになってる」
「見張りとかはいないんでしょうか?」
ヨシュアの問いに
「多分洞窟内の入り口近くにいるはず」
とフィーナが答える。
「いる……たぶん……2とう……」
その言葉をラパンも肯定する。
「中じゃ奇襲は難しいかな……」
見張りが外にいるなら、ラパンがそっと近づいて無力化する事が可能だったかも知れない。でも中にいるとなると、攻略が格段に難しくなる。中に残りの黒狼族が何頭いるかも分からない。下手をすれば藪をつついて蛇を出してしまうという危険性もあるのだ。
「だが手をこまねいていれば、ヤツが回復してしまう」
ライトさんの言うとおりだ。現状黒狼族の長に対する有効打を私たちは持っていない。敵の手にある必殺武器を手に入れるしかない以上、長が弱っているうちに攻め込んで、それを奪取するのが勝利への近道だ。
「結局、虎穴に入らずんば孤児を得ずって事ね」
お嬢様が小さな声で呟いた。
するとその言葉に呼応したかのようにラパンが立ち上がった。
「ちょっ……ラパン、何をっ!?」
ラパンは光の剣の先を入り口に向けて構える。そして……
「せんて……ひっしょう……」
一言呟くと光の矢を撃ち出した。
なぁ~~~っ!!!!
「ラパンっ! 何てことをっ!?」
「りゅうおう……いった……」
ゲームと実戦を一緒にするんじゃないっ!
「やっちゃったものはしょうがないわ! ライト、行くわよっ!」
お嬢様とライトさんが駆け出すと同時に、入り口から2頭の黒狼族が飛び出して来た。
「結果オーライかもね。これで外で戦える。シーナとヨシュアは盾の後ろに隠れて」
その言葉に従って、私たちはミズキさんの盾の後ろに待機する。
お嬢様とライトさんが2頭の黒狼族と対峙すると、入り口から更に黒狼族の一群が現れた。状況は正に蜂の巣をつついたよう。でも外で戦えるのなら、私たちにとっては有利だ。
空中からミントのライトニングが敵の動きを封じ、お嬢様、ライトさん、ラパンの3人が敵を打ち倒して行く。ヨシュアは頃合いを見計らってお嬢様、ラパン、ミントにヒールをかけている。あれ? そういえばフィーナは……?
そう思って周りを見回すと、1頭の白狼族が黒狼族と相対していた。あれがフィーナの本来の姿? それは美しく、気高い白き人狼の闘う姿だった。
私だけ何も出来ずにいる……私だけ……
「シーナ、焦っちゃダメだ。君には君にしか出来ない事があるんだからね」
ミズキさんの言葉にも、胸のモヤモヤは晴れない。私にも戦う力があればいいのに。ミズキさんに守られながら、私は無力感に襲われていた。