Ledatcham’s blog

ゲームとラノベが好きです🐱

月の女神と夢見る迷宮 第二十三話

絶滅のボス戦

f:id:Ledatcham:20240915125221j:image

 私たちは風上から急いで人狼達に近づく。私は移動の間もミントの視界を通して、人狼達の争いを観察していた。それで分かったことは、黒い人狼族の中にはボスらしき者がいて、武器を持っているようだ。

 「しーな……しろ……まける……」
 ラパンが言うとおり、白の人狼族は既に2頭しか残っていない。そしてそのうちの1頭も既に深手を負っているようで、今にも倒れそうだった。

 黒い人狼族達は白の2頭を取り囲み、そのうちの数頭が今にも飛びかかろうとしていた。

 「ミントっ! 止めてっ!!」
 どっちが味方でどっちが敵なのかも分からない。いや、両方とも敵だと考えた方が間違いないのかも知れない。それにこの戦いを止められたとしても、私たちに何のメリットがあるんだろう。様々な思いが胸の内に過る。

 けど……けれども……。私は迷わないと決めたのだ。みんなが私に期待をしてくれているのだから。

 「らいとにーんっ!」
 ミントの指先から光が弾けた。その光が黒い人狼達の行く手を阻む。白い人狼達にトドメを刺そうとしていた黒の人狼達は、慌てて光の出所であるミントに向けて防御姿勢を取った。

 その一瞬の間に、私とラパンは白と黒の間に割り込む。どちらも突如として現れた私たちに驚き、動きを止めていた。

 「しーな……しろ……わたし……くろ……」
 ラパンはそう言うと黒の人狼族に光の剣を向ける。私は白の人狼族に向かって戦闘姿勢をとった。

 白い人狼族の内の1頭は、既に息も絶え絶えで戦える状態ではなかった。そして残る1頭には戦闘しようという意志が感じられず、どちらかというと怯えの感情が見られた。私は構えたナイフをそっと下ろすと、こちらにも戦闘する意志はないことを示した。f:id:Ledatcham:20240915125142j:image

 すると脅えていた白い人狼が私の顔を見つめ、口を開いた。
 「お願い、助けてっ!」
 
 その言葉を聞いて、私の全ての迷いは吹っ切れた。助けを求める相手に振り上げる剣を、私は持っていないのよ。例え騙されてるとしてもね。それはきっとみんなも同じはず。

 「ミントっ! 敵は黒よっ!!」
 「あいあい、まーむっ!」
 ミントのライトニングがほとばしり、数体の黒い人狼族が倒れ伏した。既に敵対していたラパンも光の剣を片手に立ち回る。

 「シーナっ!」
 その時、ようやくお嬢様たちが戦場に到着した。
 「状況は?」
 ミズキさんの言葉に私は
 「敵は黒。白は保護対象です」
 と端的に言う。
 
 「オーケー、任せて!」
 「分かった」
 お嬢様とライトさんが黒い人狼族に向き直った。

 「グルルルルルルルルルルッ!」
 不気味な声で呻きながら、黒の人狼族が包囲網を狭めてくる。けれど多勢に無勢ではあるが空を飛べない以上、ミントによる空からの攻撃には奴等も対処のしようが無い。1頭また1頭と数を減らしていく。

 ミントに注意を向けていると、今度はラパンによる光の剣の攻撃に晒される事になる。ラパンの速さは人狼族のそれを遙かに凌駕していて、その攻撃を躱すことができる者はいなかった。

 そしてそこに加わるお嬢様とライトさんの攻撃。徐々に戦局はこちら側に傾いていき、最初にあった彼我の戦力差がいつの間にか逆転していた。

 

 しかしそんな楽勝ムードを嘲笑うかのように、事態は急転直下を迎えた。
f:id:Ledatcham:20240915125002j:image
 森の木々の間をゆっくりと抜けてきたソイツは、ミントのライトニングを浴びてもびくともしなかった。ラパンの光の剣にも何ら脅える事なく、真っ直ぐにこちらへ突き進んで来る。

 真っ黒で巨大な山。それがソイツの第一印象だった。ただの人狼というには、あまりにも圧倒的なオーラを感じるたたずまい。それが強敵であることに異を唱える者は誰もいないだろう。

 「どうやらボスのお出ましのようね」
 お嬢様が額に汗を滲ませる。
 「気をつけろディアナ。ヤツの毛皮の防御力は相当高い」
 お嬢様に注意を促すライトさんの声音にも、やや焦りが混じっているように聞こえる。

 「大丈夫よ! 私の剣なら切り裂けるわっ!」
 そう言うと同時にお嬢様がソイツに斬りかかった。

 「ガインッ!」
 重い音が辺りに鳴り響く。お嬢様が放った渾身の一太刀が、軽々と爪で弾き飛ばされる。

 「そんなっ! ミスリルの剣を受け止めるなんてっ!?」
 信じられないという顔をして、お嬢様が固まってしまった。

 その機を逃す敵ではなかった。ソイツは無造作に右手を振り回す。
 「ドゴッ!」
 鈍い音がした。ヤツの拳がお嬢様の脇腹に入ったのだ。

 「くはっ!」
 お嬢様の体が宙に舞う。宙に浮いた体に向かって左の拳を突き出す。その拳はお嬢様の肩口を捉え、後方に弾き飛ばした。飛ばされた先には巨木が立ちはだかっている。

 「お嬢様っ!!」「ディアナッ!!」
 マズいマズいマズいっ! このまま木の幹に叩きつけられたら、お嬢様が致命傷を負ってしまう。駆けだそうとした私の前に何者かが立ちはだかった。ミズキさんだ。もう間に合わないっ!

 その時お嬢様の体と木の幹の間に滑り込んだ者がいた。ラパンだ。ラパンがお嬢様の体を受け止め、自らの体をクッション代わりにしたのだ。

f:id:Ledatcham:20240915124925j:image

「ンキュッ!」
 お嬢様を抱きかかえたまま巨木の幹に激突したラパンは、苦しげな声を上げて動かなくなってしまった。

 「ラパンっ!」
 その時私が発した声がラパンに届いたのかどうかは分からない。でも、ラパンの声が頭の中に聞こえたような気がした。「しーな……ごめんね……」と……

 私は絶望感に囚われ、ただ立ち尽くしていた。