Ledatcham’s blog

ゲームとラノベが好きです🐱

月の女神と夢見る迷宮 第二十二話

そうだ、私は1人じゃない
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 「何、この剣っ!? スパスパ斬れるわっ!!」
 新しいミスリルソードを楽しそうに振り回すお嬢様。お嬢様が剣を一振りする毎に、リザードマン達の首と胴体が次々と離れていく。

 今現在私たちのいる場所はダンジョンの地下5階。この階層からリザードマンが複数で出現するようになった。けれど私たちは何ら苦戦することもなかった。何故ならラパンが誘導してくるリザードマンを、お嬢様が片っ端から斬り捨てたからだ。

 「何か……暇だね……」
 ミズキさんが苦笑いを浮かべながらそう言った。
 「そうですね……。お嬢様とヨシュア、それにラパンだけでこの階は乗り切れるような気がします」
 
 もちろんミントと私で相変わらずマッピングは続けている。だが、こと戦闘に限るならば、ラパンが誘導してきた魔物をお嬢様が殲滅する。殲滅し終わった後はヨシュアが回復。またラパンが──の繰り返し。このルーティーンが確立していた。

 

 たまにお嬢様が撃ち漏らした敵を、ライトさんが叩き潰すくらい。それくらいミスリルソードを獲てからのお嬢様のパフォーマンスは圧倒的だった。

 「余力がある事は良いことだ」
 口ではそう言うライトさんも、どこか物足りなさそうな感じを滲ませていた。f:id:Ledatcham:20240902042501j:image

 「もう、何かね。今までの戦いは何だったのってくらい……」
 休憩中もお嬢様はとても饒舌だった。私はミントの送ってくる情報をマップにしながら相槌を打つ。

 「切れ味が鋭いだけじゃなくてね、なんて言うか……何処をどう斬ればいいのか分かるのよね」
 「やっぱりインテリジェントソードなんですかね?」
 と私。
 「うーん、特に会話ができるとかはないんだけど……」
 「無意識下で伝えてくるって感じなのかな?」
 ミズキさんも会話に加わる。

 「そうなのかなあ……。特に意識はしてないんだけど」
 お嬢様が首を傾げながら言った。

 そんな会話を続けていると、ミントから地下に続く階段を見つけたという連絡が入った。ここからはそんなに遠くない。今のところ近くに敵もいないようなので、ミントに帰還の指示を出さずにおく。そして私たちは早速そこへ向かうことにした。
 
 階段の手前でミントと合流し、その階段を降りた私たちは驚愕した。地下6階はそれまでのような迷路形式ではなく、オープンフィールドだったからだ。

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 「こ、この風景って……」

 「フランカス地方……」
 私とお嬢様の言葉が重なった。そう、これはまさにフランカス地方そのものだ。緑豊かな草原の中を美しく澄み渡った小川が流れ、その奥には森が存在している。更に遠くに目を向ければ、頂上に未だ根雪を頂く山々が見えた。この小川はきっと山の根雪が水源となっているのだろう。触るととても冷たい。

 

 「カルム村のような村は……流石にないか」
 ライトさんがそう呟いた。人間が存在してない以上、村が存在するわけが……え、ちょっと待って? あれは……人?

 

 遠くに何人かの人影が見えるような気がして、私は思わずラパンを見た。ラパンも聞き耳を立て、そちらの方向をじっと観ている。

 

 「ミント、偵察に行ってくれる?」
 私がそう指示を出すと、ミントは
 「おっけー、まま」
 と軽く答えてその人影の方へ飛んで行った。

 

 「こっち……かざしも……まだ……きづかれてない……」 
 ラパンが小声で言う。その声に反応して私たちは地面に伏せた。そして。そのままの姿勢で私はミントの視界に切り替える。

 

 ミントはゆったりとした速度で上空から人影らしき物に近づいていた。次第にその姿が鮮明になってゆく。人間……ではないわ。これは……


 「おおかみ……にんげん……」
 ラパンが呟いた。え? ラパンにも観えてるの?
 「しーなみる……ラパンもみえる……」
 あぁ、なるほど。そういうことね。
 
 「人狼なのか?」
 ライトさんが問いかけてきた。
 「多分そうだと思います。ただ、なんか変なんです」
 「どういうこと?」
 私の言葉にお嬢様が反応する。
 「なんか、仲間割れをしてるような……」
 「仲間同士で争ってるということかな?」 
 ミズキさんに詳しく話すよう促される。


 「少しだけ待って貰えますか?」
 そう言うと、私は上空で様子を観ているミントに指示を出した。

 『ミント、もう少しだけ近づいてくれる?』 
 『あーい』
 数瞬の後、ミントからの映像が更に鮮明になった。

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 「白い人狼と黒い人狼が戦っているみたいです。あくまで見た感じですけど、黒い人狼の方が優勢……?」
 「人狼にも種族があるんでしょうか?」
 ヨシュアが疑問を口にした。
 「聞いたことはないけど、妖精族にも色々あるからね。人狼族にあっても不思議ではないかな」
 ミズキさんが私見だけど……と付け加えて答えた。

 

 「取り敢えず様子を見守った方がいい」
 ライトさんが言った言葉に私は肯いた。両方に喧嘩を売るよりも、漁夫の利を狙った方がいいからね。

 

 しかし、その意見に真っ向から反対した人がいた。お嬢様だ。
 「私は反対。傷ついた相手を倒すのは何だか嫌だもの」
 お、お嬢様……それは……

 

 「いつからそんな戦闘狂になったんだい?」
 ミズキさんがたしなめるように言った。
 「そうじゃないわ。もしかしたら戦いを止めさせられるかも知れないじゃない?」
 お嬢様はそう言って私をチラリと見た。

 それは、私にテイムしろって事でしょうか? きっとそうですよね……

 

 「できそうなのか、シーナ?」
 ライトさんに聞かれて私は言葉に詰まる。まず人狼に近づけるかどうか。テイムするには頭に触れる必要があるのだ。これにはかなりの危険が伴う。今までテイムしてきた相手は、何だかんだで最初から私に懐いてきた。敵対してきたら難しいと思う。

 

 次にもしテイムできたとして……ラパンたちと上手くやれるかどうかという問題がある。確かにラパンには、狼や他の強力な魔物を倒すだけの力がある。人狼相手でもひけはとらないだろう。だけど仲良くなれるかというと話は別だ。ラベンダーはあくまでも例外なのだ。

 

 私がじっと考えこんでいると、ラパンが話しかけてきた。
 「しーな……しんぱい……しないで……わたし……まかせる……」
 「ラパン……」
 私はじっとラパンを見つめた。そうね……私は1人じゃない。ラパンも、ミントも、お嬢様も私を支えてくれる。そして……きっと貴方も……

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 「やってみます!」
 私はそう言い切ると、自分を鼓舞する為に拳を強く握りしめた。