Ledatcham’s blog

ゲームとラノベが好きです🐱

田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド

我が麗しのグリーンフィールド
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「知らないってば!私たちの所為じゃないって!」

 今、私とメイは町役場の一室にいる。そこで町長を始め、町の重鎮達から取り調べのようなものを受けていた。理由はアオちゃんが突然いなくなってしまったからだ。

 

 大人たちは私たちが仲違いをしたのではないかと疑っているらしい。観光大使の任期は終わっているとはいえ、町の顔であるアオちゃんがいなくなってしまって、役場の中は右往左往していた。目撃情報も募られていたが、一向にアオちゃんが見つかる気配はなかった。

 

 「どこか別の場所に移住したのではないか?」とか「前の世界に帰ってしまったのか?」とか様々な憶測がなされた。その原因が私たちの不仲によるものというゴシップ記事が出回って以来、こうした事情聴取や取材が毎日のように行われるようになった。

 

 私とメイのみならず生徒会のメンバーにそれが及ぶようになるに従って、私たちはお互いに会うのを控えようという申し合わせをした。一緒にいるとそれだけで注目を浴びてしまうからだ。でも、それが余計に不仲説を助長する事になってしまう事に、その時は気づいていなかった。

 

 「アオちゃんどこに行ったのかな……」

 一人になってふと考える。一番ありうるのは前いた所に帰った事だ。でも、それなら何故帰る前に一言言ってくれなかったのか……

 

 ふと窓辺に目をやると、そこには1通の手紙が置いてあった。いつからそこにあったのだろう? そう不思議に思って手に取ってみると、それは便箋10枚にも渡る長い手紙だった。そして、差出人はアオちゃんその人だった。

 

 『突然いなくなってゴメンな……』から始まる長い手紙の前半には、アオちゃんが前いた世界に帰る方法が見つかった事。理由(わけ)あって一度前の世界に戻る事。でもいつかグリーンフィールドに帰ってくるつもりだという事が書かれていた。


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 そして後半には、グリーンフィールドがアオちゃんにとってどれだけ楽しい場所だったか、私たちと過ごした日々がどれだけ素晴らしい時だったかについて書かれていた。最後は『ありがとなぁ』の言葉で締められていた。

 

 アオちゃんらしいな……

 行き当たりばったりでおちゃらけてるけど、変なところで律儀。そんな彼女の性格が表れた文章だった。

 

 「しょうがないドラゴン娘だなぁ……」

 結構迷惑かけられたけど、やっぱり憎めないのよね。うん、切り替えの早いところは私の数少ない長所だ。水に流すとするか。まぁ、いつか再会した時に愚痴の一つでも言ってやろう。そう思いながら、私はその手紙を封筒にしまった。

 

──グリーンフィールドの厳しい冬が漸く終わりを告げた。皆がアオちゃんの事を忘れかけた頃、私たちは三年間通った学び舎を卒業することになった。私は育ての両親を続けて亡くし、その悲しみを紛らわせる為にもシーオーシャンへ旅立つ事にした。

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 メイは泣いて止めてくれたけど、私の決意は変わらなかった。そのメイはこの地で両親の手伝いをする事になっている。こうして私たちはそれぞれの道を歩き出す事になった。 

 

 ──これが『ブルードラゴン事件』の顛末。少しほろ苦いけれど、甘酸っぱい私たちの思い出だ。
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 「音子ちゃん、もうアマネさんには会ったぁ?」

 「ううん、まだよ」

 「アマネさん、ずっと会いたがってたよぉ。自分もぉ、音子ちゃんに着いてけば良かったってぇ、ずっと言ってたぁ」

 「そっかぁ、あの人も旅するの好きだしね」

 「ううん、どっちかと言うとぉ、音子ちゃんが好きなんだとぉ、思う。二人とも似てるところあるしぃ」

 

 そうかな? 私と師匠の性格は全然違うと思うけど。一緒にいても合わないと思うんだけどね。一生着いてく? 若さ故の気の迷いって奴よね。

 『それは同族嫌悪ってヤツよねぇ……』

 久々にキャティからのリンクが飛んできた。くそぉ……

 

 「まぁ、この後会いに行く予定。ここに帰ってきたのも師匠に用があったからだし」

 「良かったぁ。アマネさんきっと喜ぶよぉ」

 「それと……メイには悪い事をしたと思ってるわ。ゴメン……」

 「何のことぉ?」

 「アオちゃんの事を全て押し付けて、シーオーシャンに旅立ったこと」

 「あぁ、その事ねぇ」

 

 私がここでメイと遭った時に「げっ!」と呟いてしまった理由はそれだ。彼女に会うのはかなり後ろめたかった。出来れば逢わずに済ませたいというのが本音だった。

 

 アオちゃんからの手紙を、私はメイには見せた。そして、その内容をお互い他言しない事にした。湖の底に他の世界へ繫がる遺跡がある事を、大人達に知られるのはマズいと考えたからだ。

 

 「私がいなくなった後もいろいろと聞かれたんじゃない?」

 「そうでもないよぉ、ほらぁ、私の家ってアレだしぃ」

 

 そう、メイの家はいわゆる名家だ。母親は元伯爵令嬢で、父親は犬獣人だが子爵の爵位を持っている。領地こそないが、商家として成功を収めているかなり大きな家だ。だから流石に誰彼となく、凸する事は出来ないだろうとは思う。でも親戚とかパトリシア女王関係とかね。追及をかわすのはいろいろと大変だったはずだ。

 

 「アオちゃん何してるかなぁ……」

 「あっちでもアイドル活動に忙しいんじゃない?」

 「きっとそうよねぇ。また会えるかなぁ……」

 「その事なんだけど実は……」


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 私は改めてグリーンフィールドに帰ってきた理由をメイに話した。メイは最初驚いた顔をしたけど次第に笑顔になり、そして言った。

「10年後は分からないけどぉ、少なくとも2年後の私は幸せかもねぇ。もちろん今度は私も一緒に行くわぁ」

 「貴女も変わったわね。変な方向に」

 「音子ちゃんにだけはぁ、言われたくないですぅ」

 「あははっ」

 「ふふっ」

 

 そうして私たちが旧交を温めていると、背後に人の気配がした。

 

「やっほー、えぶりばでぃ元気ぃ? 愛しあってるかぁい?」

 振り返るとそこには、我が麗しのアオイ・グリーンフィールドがいた。

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田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド 完