Ledatcham’s blog

ゲームとラノベが好きです🐱

田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド

田舎の猫 大激突

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 「まったくなっとらん。ここの導線はどうなっとるんだ。俺様に20メートルも歩かせるとはっ! お陰で髪型が乱れてしまったではないかっ」

 

 馬車から会場まで歩かされた事に怒り心頭らしい。知事は側近の部下に毒づいていた。

 

「ほんまや、おっちゃん。ズラがずれてるで」

 湖の中からアオちゃんがヤジを飛ばす。

 「なにっ!?」

 知事は焦って部下に姿見を用意させ、髪型の確認を始めた。

 

 あ、ズラはホントみたいね……。しかしどっから出した、その姿見……

 

 そんなコントのようなやり取りの後、漸く私たちは向かい合った。ま、観客にはウケてるみたいだからいいかな?

 

 親玉の登場で第二ラウンドのゴングが鳴った。私と師匠が知事に迫る。

 

 「小癪なっ! これでも食らえっ! ファイヤーアローッ!!」

 知事が魔法を使った。この世界、貴族の血を引いている者は魔法が使えるのだ。

 

 「ちっ、汚いっ!」

 私たちが避けると後ろの観客に当たる。知事はそれを狙ったのだ。

 

 「ウォーターシールド!」

 だが背後からメイがウォーターシールドを使い、知事のファイヤーアローを防いだ。やるじゃん、メイ。

 

 そう、実はメイも貴族の血を引いている。ただまぁ、魔力の制御が甘いので、攻撃魔法は普段使わない。さっきみたいになるからね。でも防御系や支援系の魔法なら安心して任せられる。

 

 「ウインドプロテクションッ!」

 続いて風防御の魔法を唱えるメイ。これで物理系の攻撃はほぼ無効になった。知事に迫る私たちの前に、牛の舌の形をした盾を持つ側近たちが立ち塞がった。なん、それ? 美味しそうだけど実用性はあるの?

 

 取り敢えず盾ごと蹴り飛ばす。側近たちはアーチを描いて湖の中に飛んでいった。アオちゃん、後は任せたよ。

 

 「ぬぉぉ、許さんっ。許さんぞっ!」

 知事が吠えた。

 

 「それはこっちの台詞よっ。この酷暑の中、湖の埋め立て工事をするなんて正気の沙汰じゃないわっ! グリーンフィールドの住民に水不足で苦しめって言うのっ?」

 

 「貴様等に何が分かるっ! このプロジェクトはな、国が推進してるんだよ。予算も随分使った。今更撤回出来ないんだっ!」

 

 「けど、住民の賛同は得られてないじゃんっ! 住民苦しめでまでやんなきゃいけないことなのっ?」

 

 「他国も参加するんだ。国の威信がかかってるんだよっ! 俺様の名誉と昇進もなっ」

 

 どうせそんなこったろうと思った。結局は自分たちの権力拡大の為に、万博フェスティバルを利用しようとしてるだけなのだ。

 

 アオちゃんを利用しようとしてるのも、その力を誇示する為。ブルードラゴンがバックに付いてるって他国に脅威を抱かせたいだけだ。私は……多分アオちゃんに言うことを聞かせる為の人質ってとこね。

 

 「大体知事の館って何よっ? どうして会場に貴方達の館がいるわけ? おかしいでしょっ」

 

 「ふんっ、我々が一々下々の宿屋に泊まれるかっ。拠点が必要なんだよ、陣頭指揮を執るためのなっ」

 

 どこまで行っても平行線だ。所詮話し合いでは何も解決しない。

 

 お互いの緊張感が高まって、一瞬即発の緊張状態が崩れようとした時の事だった。f:id:Ledatcham:20240803171434j:image

 「そこまでっ!」

 知事の背後に立ち、大声をあげる人物がいた。

 

 「誰だっ、邪魔をするのはっ!?」

 怒りの形相で振り返る知事たったが、その人物を確認した途端に狼狽え始めた。

 

 「どうして……どうして女王様がここにっ?」

 

 知事の背後に立っていたのはこの国の女王──パトリシア女王であった。

 

 「話は全て聞かせて貰ったわ。まず最初に言っておきます。万博フェスティバルは中止します。既に評議会の許可は取ってあるわ」

 

 「そんなっ、国の威信はどうなるんですかっ? 他国に何と言い訳すればっ?」

 

 「国の威信? 貴方の威信でしょう? 失われる事になるのは」

 

 「これだけの大がかりな計画を中止したら、他国に舐められてしまいますぞ。それに予算も相当つぎ込んでいます。ここで中止などしては……」

 

 「貴方は何の為の、誰の為の知事なの? 貴方の領民の暮らしを良くする為に努力するのが知事の役目なのではないの?」

 

 「ですがっ……」

 

 「いい? 人の上に立つ者はね、誰よりも謙虚かつ真摯であらねばならないのよ。貴方のように権力を振りかざすだけでは誰も着いてこない。そんな事も分からないなんて知事失格ね」

 

 「ぐぅっ……」

 知事は悔しそうに下を向いた。

 ぐう畜がぐうの音も出ない姿を見て、私の心はすっきりと晴れ渡っていった。

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 「さて、コンサートはまだ続くのよね?」

 パトリシア女王が言った。

 

 「ええ、ラストソングは貴女に……」

 私は女王にそう告げるとステージに向かって歩き出した。