Ledatcham’s blog

ゲームとラノベが好きです🐱

月の女神と夢見る迷宮 第六十四話

小さな綻び

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 「堅い話はそれくらいにしましょ。皆さん、食事はもうされました?」
 アンナさんがみんなにそう声をかける。
 「いえ、宿で取る予定だったのでまだ……」
 「それなら一緒に食べません? 私たちもまだなんですよ」
 そう言うと元来た道を指差した。

 「そうだね。話の続きは食事をしながらでも……」
 カスロンも賛同の意を示す。
 「じゃ、もう一度食堂へ行きましょ」
 そう言うとアンナさんはスタスタと歩き始めた。この人ホントにフットワーク軽いわ。バイタリティ溢れた、バリバリに仕事が出来る女性って感じでカッコいいのよ。

 「今日はもう遅いから私が作るわね、カスロン。今からイーバーに頼むと夜中になっちゃう」
 そう言うとアンナさんは厨房に入ろうとする。
 「あ……うん……」
 カスロンは何だか歯切れの悪いしゃべり方で賛同した。あ、これってもしかして……。お嬢様が料理すると言った時のミズキさんの反応に似ているわ。

 「あ、私も手伝います」
 カスロンの表情から察した私は、手伝いを申し出る事にした。
 「ううん、貴女の役目はこっちよ」
 そう言ってアンナさんは私にある物を差し出した。それは……ハリセンだった……

 「どっから出したんですか、これ?」
 「それは女の子のヒ・ミ・ツ……と言いたい所だけど、子どもの前ではやめておくわ。アイテムボックスよ」
 「アイテムボックス持ちなんですか?」

 アイテムボックス……別名収納スキルとも言われるそれは、マジックバックとは違って個人のスキルである。マジックバックが誰でも使えるのに対して、アイテムボックスはスキルを持つ本人にしか使えない。そしてその容量は個人の持つ魔力量で決まるから、大容量のアイテムボックス持ちもいる。運送業者として大成している人は、その殆どがアイテムボックス持ちだ。

 「私の場合そんなに大きくはないんだけど、仕事に必要不可欠な道具を入れてるの」
 必要不可欠な道具……ハリセンが? 私は思わずツッコミそうになって自制する。
 「カスロンはねぇ……決して話し下手じゃないんだけど、よく脱線するのよ。そんな時はこれでビシッとね」
 な、なるほど……対カスロン専用アイテムなのね。

 「ま、そんな訳で……私が料理してる間は、貴女にその役目をお願いしたいの。男の人だと力が強すぎるし、あっちの彼女は手加減出来なさそうだしね……」
 さすが都の長。人の性質を見抜くのに長けている。お嬢様に任せたら、脱線の有無に関わらず叩き続けるに違いない。

 「分かりました……でも……」
 それでも私は食い下がろうとした。パーリに着いて初めて食べる食事。折角なら美味しい物を食べたい……そんな強い願望から来る最後のあがきだ。カスロンの見せた態度から察するに、アンナさんの料理スキルは……


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 「ママ、私が手伝っていい?」
 空気を読んだミントが私の代わりを申し出た。ミントの料理スキルは、現在赤丸急上昇中だ。十分任せられる。

 「分かったわ、ミント……お願いね」
 私はミントの目をしっかりと見て言う。
 『大丈夫、任せておいて。アンナさんの勝手にはさせないから』
 私の思いを受け止めたミントは、そうリンチャで返してきた。

 「マ、ママ……? 貴女こんな大きい娘がいるのっ? もしかして同族っ!?」
 あ……完全に誤解されたわね。
 「いえ、実の親娘というわけでは……」
 私は手短にミントと私の関係を説明した。
 
 「へぇー、この娘妖精なんだぁ……」
 アンナさんの目がキラキラしている。この人意外と乙女なのかも知れない。だって妖精の存在に憧れない女の子はいないでしょ?

 「しーな……わたしも……」
 ラパンもサポートを申し出た。まぁ、ラパンはラパンの好きな物を作るだけだろうけど、味は保障されてるからね。勿論二つ返事でOKしたわ。

 「それじゃ、期待してて!」
 そう言い残してミントとラパンを伴い、アンナさんは厨房に消えた。


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 「助かったよ……。アンナの料理は決して不味くはないんだが、ハーフエルフという種族のせいか野菜料理が多いんだ」
 あ、そうなの? ラパンと気が合いそうね。
 「私は野菜が苦手でね。残すと『好き嫌いをしてはいけません。お残しは許しませんよ!』と叱られるんだよね……」
 アンタは子どもか……

 まぁ、今回はミントがいるからちゃんと肉料理も出てくるはず。マジックバックの中に、食材もたっぷりあるから心配ないわよ。

 「さて……これからシルフィ……いや、君たちはどうする予定なんだい?」
 視線はシルヴィに固定されたまま、一応は全員を気遣ってカスロンが尋ねる。えーっと……何処まで話しても良いのか。取り敢えずエクストラクエストの事は黙っていた方が良いわよね。

 「そ……」
 「れはですね、ここパーリで少しクエストをこなそうと思いまして」
 お嬢様が話し始めようとした時、横からミズキさんがインターセプトした。さすが、ミズキさん。ナイス判断よね。このままお嬢様に話させたら、何を喋るか分からないもの。お嬢様は腹芸が出来る性格じゃないのだ。

 「あぁ……そうか、君たちは冒険者だったね。そうだ、娘も冒険者登録をしたと聞いたんだけど本当なのかい?」
 「えぇ、シルヴィという名前で登録しました。でも、それをどこで?」

 「ギルドの受付嬢たちさ。彼女たちはパーリ都庁からの出向職員なんだ」
 え? そうなの?
 「昨今、冒険者ギルドで働きたいという者が少なくてね。ほら、ギルド職員の仕事って3Kだろう?」
 3K……? キツい、汚い……キモい?
 「……危険だ」
 ライトさんから鋭いツッコミが入る。な、なぜ分かったのっ!?
 
 「だから、都庁の職員を出向させざるを得ないのが現状でね。彼女たちはここ、都庁で業務の引き継ぎを行うんだ。その日の報告も兼ねてね」
 ギルド職員は24時間体制だもんね。交代制でなければ務まらないわよね。

 「業務の引き継ぎを何故ここで?」
 ふと疑問に思った事を口に出す。するとカスロンの顔が少し曇った。
 「まぁ、ギルドとの間には色々あってね。あちらの動向を把握しておかなければならないんだ……」
 ふーむ、バーバラさんがカスロンの身辺調査を依頼したのは、その辺りの事もあるのかな。向こうがスパイを送るなら、こっちも……みたいな。

 「それで彼女たちの報告の中に、本日付けでシルヴィという名前の冒険者登録をした者がいる──出身地はアルカスで、金髪碧眼の美少女だというものがあったんだ。私はすぐにシルフィだとピンと来た」
 なるほど。バーバラさんはここまで読んでいたのか。


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 「でも貴方はシルフィがどうなったかを知ってるんでしょ? どうして会いに来てくれるなんて思ったの?」
 うわーっ、お嬢様が炎のストレートをど真ん中に投げ込んだーっ!

 すると、カスロンは怪訝そうな顔をして言った。
 「うん? どうなったとは……?」
 え? 私たちの動きが凍り付いたように止まる。じっとカスロンの顔を見つめるが、嘘やごまかしを言っているようには見えない。

 おかしい。何かを見落としてる気がするけど、それが何なのかが分からない。魚の小骨が喉に刺さったような不快な感覚を、私は感じていた。

 「まさか……ルシフェリアに何かあったのか? シルフィ!」
 その言葉に、シルヴィは戸惑いの表情を見せたまま動かなくなった。